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プロベイショナー 第一章『ワン リトル キス』  作者: 早生しあ
STORY 1
4/23

ヴァンパイア少女の救った人間【4】

 男の子の髪を引っ張り、そいつは彼を立たせた。立つというより頭で引かれてぶら下がっている。首もとの傷が開き、男の子の口から血が溢れた。

「あたしの下僕を離すのよね!」

 それ以上触らないで、それ以上、傷付けないで。

「離してやるよ、どうせすぐに死ぬ。ただ、お前と同じ力を得ないと不公平だろ? 首は……マスターヴァンパイアの血が着いてるんだったな」

 そいつは男の子の首筋に吸い付き、喉をならして血を飲む。

 男の子をあたしの方に放り投げた。血まみれの彼を抱き締める。

 まだ冷たくない。でもさっきより顔色は悪い気がする。

 下僕になるのはどのくらいかかるのか本には書いてなかった。

 下僕になるまえに死んでしまったら……。そういった考えがよぎる。

「綺麗な顔……」

 金の髪に、閉じられた瞳。長いまつげがあたしの息で微かに揺れる。

 目が開くところを見たい。笑ってるところを見たい。

 こんなところで死なせたくない。

 あたしは男の子を木のそばに横たわらせる。ハンカチで首を押さえた。

 木から伸びるつるでそこを縛り、男の子の髪をそっと撫でる。

 昨日友達と髪の毛を結び合いっこした。長い髪が自慢で、今は切り落として散らばってる。

 もう掴まれたくないから。

「あたしは、貴方がこの子を諦めるまでこの子に触れさせないのよね」

 こぶしを握り締めてあたしはそいつを睨む。

「っ」

 異様な空気に気付く。それは目の前で、口元に男の子の血を付けたヴァンパイアが。

「な、何かおかしいのよね」

 いや、元々あいつはおかしいとは思った。でも、そんなんじゃない。まるで別人がそこにいるような。

「ウマイな。ニンゲンの血はウマイなアァッ!」

「ひっ」

 怯む。そいつは、男の子の両親のそばでしゃがみこみ、ずるずると血をすすり始めた。

 お父さんと思われる人に至っては、食らうかのように。

「ぐっ……」

 あたしはしゃがみこんで吐いてしまう。

 漂う血の匂いと、執拗にすすり食らう音。怖くて気が遠くなる。

 ヴァンパイアってこうなの?

 あたしのお父さんもお母さんも、叔父さんも。あたしも。

 みんな優しいのに、人間を食べるときはこうなの?

 こんなの。獣とか、魔物とか、これじゃ、退治されるのも仕方がないような気もする。あたしも、こうなるの?

「と……さん」

 木のそば、はっきりと聞こえる男の子の声。

 駆け寄ると、うっすらと目を開けていた。深い緑の瞳から涙を一筋落としている。

 ごめんなさい。

 男の子はそう口を動かす。

 謝っている。何にだろう。

 助けられないことに?

 それとも悪いことして怒られてた?

 届かない相手に。

「もう、やめるのよねっ!!」

 あたしは男の子のお父さんを振り返り、夢中で食らいついているそいつに怒鳴った。同時にそっちに向かって駆け寄り、そいつをお父さんから離すように蹴り飛ばす。

「あ、あたしの下僕の両親は、あたしの両親みたいなものなのよね! 許さないのよねっ!」

「お、おぉおおおおっ! オマエはナンだァァ!!」



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