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プロベイショナー 第一章『ワン リトル キス』  作者: 早生しあ
STORY 4
22/23

そして家族へ【2】

 トイレには誰もいない。

 部屋を探しても、アディはいない。

「アディ?」

 庭に出る。そこにもいなかった。

「メグちゃんじゃないの、どうしたの? 夜中に出歩くなんて珍しい」

 隣のおばさんが庭の掃除をしていた。

「衣替えしたばっかりで全然馴染まなくてね。もうすぐ冬だというのに、昼間は腐りそうなのよ。だから掃除も夜中になるのだけど、迷惑かしら?」

 スタイルの良いおばさんがあたしの瞳を覗きこむ。

 衣替え。死体の皮を剥ぎ取って自分の姿にしてしまう種族のおばさんは、『衣』が腐ると着替える。しばらくしたら姿が変わってしまうから、頭につけている大きな猫耳が目印。

「そういえば、さっきメグちゃんの家から小さな男の子が飛び出してあっちへ走って行ったわよ。とうとうヤマグチさんも生き血の魅力に目覚めて男の子を拐ったのかしらね」

「ち、違うのよね! あの子はあたしの後成りで、あたしのお兄ちゃんになったのよね。また紹介するのよね! おばさんありがとう!」

 あたしはおばさんの指した方に駆け出した。

 アディが、むこうに。

「アディ……」

「伯母さんのところに行ったんだろう」

 叔父さんがあたしにいつの間にか並走している。車はもう懲りたらしい。

「俺らにはこの時間が調子いいからな」

 叔父さんはあたしを抱える。

「アディを迎えに行くぞ。夜中に家出するなんてさっそく問題児だ。帰ったらおしりぺんぺんの刑だな」




 アディは町の外れで見つかった。

 まだ人間と間違われるのか、人間を突き刺して旗にするのが趣味の種族に捕まって、連れ去られようとしていた。

 叔父さんが説明しに行き、あたしは泣きべそをかいているアディに、あれは変質者だと教えた。

 人間ではない種族の暮らすこの町でアディがうまくやれるかは心配。

 人間が嫌いな種族達は、人間以外の異種族とは仲が良い。

 敵の敵は味方、ということらしい。

 昼間に来る人間は、外の町の学校に通っているあたしの関係者だと思ってるから襲ったりしない。でも、夜中に子どもが一人で紛れ込んでいたら、襲ってくれと言っているようなもの。

 アディが町に馴染んだらこんなこともなくなるだろうけど。



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