ヴァンパイア少女の救った人間【2】
逃げて。その言葉が頭に回る。
相手は大人のヴァンパイア。あたしは力のない子ども。
見逃してくれるならともかく。
「この子はあたしが助けるのよね。お願い、あたしに欲しいのよね!」
あたしはしがみつく。同じ種族だから、その子どもが言ってるんだから。
「殺せと依頼されている。子どももな」
「まだ生きてるのよね! その子はまだ生きてるのよね! 助かるかも知れないから! お願い! あたしと同じ年くらいなのよね!!」
あたしは夢中で叫ぶ。腕にしがみついて止める。
その腕でそいつは男の子の首の傷に手を入れた。
嫌な音がする。男の子は何かの音をもらして、びくんと体を跳ねさせた。
「ひっ……」
あたしの喉からも悲鳴が出る。血に染まったそいつの手の平は男の子の中で、あたしの全身に鳥肌が立った。
「ソーセージを食ったのか」
静かに告げるその口に笑みを浮かべていた。
「おねが……もうやめ……っ」
力が抜けたあたしはしがみつくこともできなくなって、男の子の横にへたり込む。まだ息があるらしい、生命力が強い男の子の手があたしの手に触れていた。
「はやく、にげて」
うわごとのような言葉が聞こえる。本当に聞こえてるのかもう分からない。
どうしていいかも。
「見ててもいいけど、子どもが見るには厳しいぞ。これが死んだら全員の首を持って帰る契約だ」
あたしの膝も腕も血にまみれた。助からないのは分かってて、ここから逃げるのが最善だとも思う。家に帰って大人を呼んできたら……。
「しんじゃう……。この子がしんじゃう」
きっとあの歌は、そこに横たわる女性の声。たった一人こんなに苦しんで、あたしと同じくらいの男の子が。
あたしの脳裏に昨日の学校の様子が浮かぶ。みんな幸せそうに笑ってた。こんな痛いこともなく、きっとこの子も昨日はそうだったはず。