あたしのお兄ちゃん【6】
叔父さんとはよく笑って話してるけど、あたしとはあまり笑って話さない。
嫌われてる訳じゃないと思うけど、好かれてもない気がする。
夜だって、叔父さんと寝てる。あたしのお兄ちゃんなのに。
「メグ、アディの歌を聞いたか?」
「全然聞いたことないのよね」
アドルフくんも歌うことを初めて知った。
聴いてみたいけど、言い出せない。あたし自身アドルフくんと仲良くなれてない。
「なんでアドルフくんはあたしとちゃんと話してくれないの? 悲しいのよね」
あたしはお風呂でお母さんに呟いた。お母さんはあたしの短い髪を甘い匂いのシャンプーで泡立てながら優しく語りかけてくれる。
「それは気になったから、アディに聞いたわ。アディはメグがあまりに自分を褒めるから緊張するんだって言ってた。かっこいいとか素敵とか今まで言われた事がないのに、メグがお世辞で言ってるから気をつかわせるのが嫌だって」
「ほんとのことなのよね。アドルフくんはあたしの見た誰よりも素敵で可愛いのよね」
あたしは湯船に浸かって頬を膨らます。
本当に大好きなのに。
お風呂から出たらアドルフくんはソファに座ってテレビを見ていた。興味なさそうだけど。
「アドルフくん……アディ!」
あたしが大声を出すと、アドルフくんはキョトンとした顔で振り返った。
「本当に貴方は貧相な顔で座ってるのよね! テレビの光で貴方の存在なんて見えないくらいなのよね! 気を遣えるくらいの甲斐性もなさそうなんだから、ジャガイモみたいにくたってたらいいのよね!」
場が凍りついた。
あたしの心臓もばくばくして、喉から出てきそう。
「メグちゃん……?」
泣きそう。アドルフくんが、泣きそう。
そうよね、突然暴言を、しかも養子になったばかりの家の子どもに言われたら傷付く。
「何がメグちゃん、なのよね! 兄のくせに妹を呼び捨てにすら出来ないなんて、情けない兄なのよね!」
「……っ」
アドルフくんの表情が険しくなる。怒った?
「なんだよ、その変なしゃべり方! 俺だってメグみたいな可愛すぎる妹なんて困るよ! 自分が可愛いのに明らかに俺にお世辞ばかり言って、馬鹿にしてる!」
アドルフくんが、立ち上がって怒鳴る。一部文句じゃないけど、可愛いというのが本心だったら、嬉しい。
「遠慮ばかりしてたらつまらないのよね! あたしは」
「俺は、メグと兄妹になりたいんだよ!」
あたしの言いたいことを先に言われる。
あたしは思わずアドルフくんに抱き着いた。
「アディ、あたしは貴方の妹なのよね。ちゃんと怒るときは怒るのよね。言いたいことがあったら、言ってほしいのよね」
アドルフくんは声を短くもらす。
感動してくれてるのかと思ったら、あたしがアドルフくんの首を締め付けていた。




