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プロベイショナー 第一章『ワン リトル キス』  作者: 早生しあ
STORY 3
17/23

あたしのお兄ちゃん【4】

 アドルフくんが、お兄ちゃんに?

 あたしはアドルフくんの後ろ姿を見つめた。

「アドルフくん、ヤマグチさんの養子になることに同意しますか? ヤマグチさんは君を迎え入れると言っています。迎えるにあたり、君の待遇ですが、学校は居住する町にある私立の小学校に通うことになります。名字はステイマーではなく、ヤマグチになります。部屋は一部屋、パソコンもある場所で、部屋が気に入らない場合は変更に応じるとのことです。家族は父母と妹、叔父が同居になります。家は12LDK。2階建てです。風呂とトイレは――」

「なります」

 説明途中でアドルフくんは答えた。

 なるって。

 あたしの、お兄ちゃんに?

「では、アドルフ・ヤマグチくん。身分証は後に送付します」

 書類にサインをして、そしてお父さんもサインをした。スーツの二人は部屋から出ていって、お母さんに案内されるままあたしとアドルフくんは同じ部屋に移動する。

「アドルフくん?」

「……伯母さんが嫌で思わず言っちゃった……」

「アドルフくんは、あたしのお兄ちゃんになるの、嫌?」

 あたしはアドルフくんの顔を見ずに訊ねる。嫌に決まってるし、今のアドルフくんの表情もそう語っている。

「助けてもらったばかりか家族にまでしてくれるなんて、そっちに迷惑だ。母さんがたまに教育費とか頭抱えてたし、子どもが増えると金がかかる」

 お金のことは分からない。アドルフくんの言葉は正しいかも知れないし、でも、本当に迷惑ならお父さんはアドルフくんを養子にするなんて言わないはず。

「でも、俺、一人っ子だったから、妹ができて嬉しい。メグちゃんは俺の妹になるんだろ?」

 あたしは頷いた。

 お兄ちゃん。アドルフくんがお兄ちゃんで、ずっと一緒にいてもいい。

 嬉しくなってきた。

 あの寂しいベッドを見なくてもいい。

「アドルフくんはあたしの上僕なのよね」

「じょうぼく?」

 聞き返すアドルフくんにあたしは満面の笑顔を見せて立ち上がった。

「下僕って弟の意味なのよね。だからお兄ちゃんなら上僕なのよね!」

「え、あ、うん」

 少し引いた感じはする。でも嬉しいから気にしない。

 あたしはアドルフくんの手を引いてリビングに戻った。

「お兄ちゃんなのよね! あたしのお兄ちゃんなのよね! こんなにかっこよくて可愛いお兄ちゃんなのよね!」

 みんなの前で宣言して、叔父さんが立ち上がった。

「俺はメグの兄代わりだっただろ?」

「叔父さんは叔父さんなのよね。アドルフくんが、あたしのお兄ちゃんなのよね」

 叔父さんはアドルフくんを引いて違う部屋に行った。味方を作ろうとしているのは明白。

「メグ」

 追いかけようとしたあたしをお父さんが止めた。



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