あたしのお兄ちゃん【2】
「家にずっと閉じ込められて本を探せと言われてた。無いと分かったら今度はここに置いてきたんじゃないかって言われて」
「帰ったとき怪我してなかった」
あたしはアドルフくんの傷を指差す。アドルフくんは口を閉じて首を降った。
「気になるならお前たちで探せばいい! だがな、本があろうがなかろうがアドルフはこの家で預かる! 警察にも通報した!!」
叔父さんの怒鳴り声が聞こえる。電話に怒鳴っている。
「よし交渉成立だ。この家を二日間好きに探させてやる。それが終わればアドルフは貰うからな」
叔父さんは電話を切り、次に別のところに電話した。
「メグ、二日間ホテルに泊まるぞ。学校の用意とお泊まりセットを準備して――兄さん? ちょっと話があるんだが」
「…………」
アドルフくんはうつむいて手を握りしめていた。
「アドルフくん、あたしとお泊まり行く?」
「帰らないと……」
ぼそぼそと呟くアドルフくんを電話を終えた叔父さんが抱える。
「二日後にこの家に帰ってこないとな。泊まりに行くぞ。アディがメグの兄弟になった記念だ」
家から荷物を持って出ようとしたとき、外にアドルフくんの伯母さんが腕を組んで立っていた。
「アドルフ、見つかったの?」
「……知りません。俺本当に黒い本なんて……」
一瞬にして怯えた表情になる。
「あたしの下僕なのよね! 話すならあたしを通すのよね! 殴ったらあたしが殴り返すんだから!」
アドルフくんを守る。あたしの弟になる、はずなんだから。
「ヴァンパイアが……」
微かに言ったのが聞こえた。
知ってるの、この人は。あたし達の存在も。じゃあアドルフくんがヴァンパイアになったってこともきっと。
「その荷物を見せなさい」
全部の荷物を奪われる。あたしのお気に入りのリップや日記帳、下着や服がバラバラと地面に落ちた。壊れてないけど、汚れてしまう。
「ないわね」
次は叔父さんの荷物。
合法なら首を引きちぎってやるのに。
「……ごめんなさい」
あたしの荷物を拾いながらアドルフくんはあたしに謝った。
「アドルフくんが謝ることじゃないのよね。いつかしばいてやるのよね!」
車に乗り込んであたしはシートを殴る。
「なんなのあの人! 許せないのよね! 弱い人間じゃなかったらぼっこぼこにしてやるのよね!」
「放っておけ。あそこにトラップも配備してやった」
叔父さんは笑う。そういえば引きこもって変なものを学んでた気がする。
通信教育で超能力もやってたけど、それは身になってないと思う。
「車の運転とか免許取って以来だな」
「ちょ、下ろすのよねっ!」
あたしは叫び、アドルフくんはくすくすと笑った。
アドルフくんが笑ってくれたことに安心したけど、笑い事じゃない。
「アドルフくんは何歳?」
気になってたことを聞いた。人間はあたし達より成長が早いから、年齢がわからない。クラスメートより小さく見えるけど。
「俺は少し前に十歳になったばかり」
「えっ?」
あたしは思わず声をあげる。あたしは再来月に十歳。あたしより歳上……。




