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プロベイショナー 第一章『ワン リトル キス』  作者: 早生しあ
STORY 2
10/23

叔父さんとアドルフくんと【3】

 あたしはアドルフくんの横に潜り込んで眠る。アドルフくんがうなされるたびに起きて汗を拭いた。

「大丈夫?」

 元気になったらもううなされない?

 寝不足のまま朝になり、学校があることを思い出した。

「メグ、そんなもののために学校を休むとかは認めないからな」

 部屋の扉がノックされ、叔父さんが声をかけてくる。

 言い方は気に食わないけど、アドルフくんが治るまで学校を休むわけにもいかない。

「アドルフくん、早く帰ってくるから待ってるのよね」

 あたしはアドルフくんの髪を撫でて一度抱き締める。暖かいし、微かに心臓の音がした。

 ヴァンパイアは死体とか書いてる本もあったけど、こうやって心臓が動いてる。ゾンビとは違う。




「おはよー」

 あたしが教室に入ると、みんなが一瞬静かになった。

 そして次の瞬間あたしに駆け寄ってくる。

「メグ、今朝のニュースでびっくりしたよ!」

 友達が半分泣きながら叫んだ。

「あんなに可愛い髪だったのに、こんなにされて……」

「腕の包帯はあいつだよね。メグ……」

 聞くところによると、昨日森に殺人鬼が出たらしい。ピクニック中の一家を殺し、森に遊びに来てた『ベン・ヤマグチとその姪』を襲った。ベンは軍隊出身のため、傷つきながらもその殺人鬼を取り押さえた。姪は軽症。

 そうニュースや新聞で出ていたらしい。『ヤマグチ』なんて姓はこの近所ではあたしの家しかないから、あたしのことじゃないかとみんなのお母さんやお父さんが言ってたらしい。

 だいたい叔父さんはほとんど引きこもりのニートで、軍隊経験なんてない。ゲームの軍隊もので指揮を取ったことはあったっけ。

「殺人鬼はどうなったの?」

「……警察の人が来たときに射殺したらしいよね」

 あたしは思い付く限り嘘をついた。ヴァンパイアの犯行とか、叔父さんが殺したとかになったら、きっと大変なんだろう。

 種族の違い。それはここにも現れる。

 先生はあたしの精神状態を考慮して、早退を勧めてくれる。不安になったときに家族がいた方がいいということらしい。

 あたしは別に不安になったりしないけど、アドルフくんと一緒に居たくて、そうすることにした。

 お父さんが迎えに来るまであたしはぼんやりとアドルフくんのことを考えていた。

 お父さんもお母さんもいなくなって、たくさん怪我させられて。

 あたしはアドルフくんの状態の方が心配だった。



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