ヴァンパイア少女の救った人間【1】
――もしアディがいなかったら、あたしはどれだけ無味乾燥した生活を送ってたか分からない
『ワン リトル キス』
人間たちの通う学校に毎日通って、何気なく話して笑う。
将来のこととか、好きな人とか。
隔たりがある。
これから先の年月も、種族も。どれだけ好きになった人がいても、あたしとは合わない。
そんなあたしは森の散歩中に素敵な歌を聞いた。
澄み渡って、綺麗で、でもあたしの中でぞくぞくする。
違うあたしが見えるようで、怖い。
「?」
なにか匂いがする。水で一人遊びをしていたとき。
血。
そこに行くと、男の子が血まみれで倒れていた。
その子の両親と思われる人達はすでに事切れていた。
「どうしよう……」
携帯を取り出して救急車を呼ぼうとした。
圏外。
後ろに立つ影に気がついて、振り返る。
同じ種族のヴァンパイアがいた。
ヴァンパイアはあたしを見るなり目を丸くする。
昼間にあたしのような子どものヴァンパイアが一人でうろうろしていることに驚いたのかも知れない。
ヴァンパイアの子どもは普通の人間と変わらない。だからヴァンパイアを嫌う魔物や憎む人間、そして依頼を受けたハンターとかに狙われないように大概の家では隠すように育てているはず。
あたしの場合は人間と人間以外の種族が仲良くできるように取り持つ両親の下で育った。退治を依頼してくる教会もあたし達の家族は例外にしてるはずだし、そもそもあたしがヴァンパイアなんて町の外の学校に通ってるからみんな知らない。
あたしも普通に一人で出歩くことを気にもしていない。
「それはもう死にかけている。手強いと依頼されたけど、あっさり死んでつまらなかったから、子どもは楽しくいたぶってやった。生にすがり付きもせずに、つまらない言葉を羅列したのが面白くないガキだった。血は要らないから、お前が飲むか?」
「…………」
あたしは横たわる男の子を見た。ぱっくりと首もとが裂けて、口を無意味に動かしている。
「あたしがこの子を助けるのよね」
「?」
あたしは男の子の前に立つ。ヴァンパイアを睨み付けた。
食事する気もないのに人間の家族を殺して……。
「依頼って何?」
「お前には関係がない。血が要らないのならそこを退け。まだその首もとに最後の晩餐を食わせてやってないからな」
あたしを突き飛ばす。
その時に男の子が微かに声を出した気がした。
「にげて」
あたしに。
逃げてと。