小さな物語
詩 「小さな物語」
子供の風采容貌で夢見る地獄の幽鬼は
苦節の境涯にのみ存在する幸福なる畢生は退屈であると
平和な国の聖者でも賢者でも無い自由を喪失した
鏡裏に神を観取する狂人
傷痕の海に沈溺して無音の世界で頬笑む
悲涼の輪郭の二日月の綺麗に尖る刃で首を墜し
辺疆に於て軀を弔う
臨終に白む息は世界に溶け入り死者はその有様に甘美に微笑んだらしい
仰臥する人は根底から堕落しておりもうあれ等の星を見られない
闇で密かに吐かれた息から暗鬼が作製される
人々が余りにも怖懼するのが可笑しくて
月は殊更に輝耀して陰影を深甚なものとする
非情にして暗澹とした檻に囲われて
その箱匣に棲息し続けているという死になる
骸の如きに世界を傍観して
命の放蕩 生の仮面を被りし死者 行先無き罪人
水溜りに幽閉された蒼穹がその監獄を抜け出して
道途をやはり東へと逃奔する
苦虫を嚙み潰した様な顔をしながら水溜りは涸れて行った
夕焼けの如き赤玉葱を切った時の様に涙が出て来た
夜お皿を洗浄していたら黄金の文字列が林檎の皮を剝く様にして
排水口へと流れて行った
河川から海へと出て世界を旅するのであろう
地獄の幽鬼も仰臥する人も月も行先無き罪人も水溜りも黄金の文字列も
所詮はこの世界の沙漠の砂粒程度の小さな物語でしか無い
短歌
きうりのとげがなすにくっつきて星屑のちらばらし紫黒の宇宙
絵
B5コピー用紙使用