銀色の魔法少女Ⅱ
†
「・・・血を弾丸に変える?」ますます理解が困難になって行く。平凡の中で僕の悶える事なんて、本当にちっぽけなものだと改めて思い知らされた気がした。倒壊ばかりで、刻む事の無い傷だけだ。
「キリカはね。自分の血液を銃弾にするんだ」「言い方変えただけですね」あと、なんだその中学生が考える様な設定は、と呟く。けれど、すぐに設定じゃないんだな、と絶望が招かれる。
「えっと、キリカちゃんは人間なんですか?」
言及をしてみれば魔法少女だとか血液を銃弾に変えるとか。僕は一度振り返り、まず彼女は人間なのだろうか?とまでに疑問を覚えた。あの怪物の件でも、僕は彼女の圧倒的で巨大な力に戦慄し、全身が恐怖で弛緩し青褪めてしまった。けれど、彼女はどこから見ても容姿は人間の女の子だし、すこし奇異だというと、髪の色くらいだ。何故こんな質問をしてしまったのか、と後悔し、すぐに「あ、すみません。今の質問は冗談です」
「違うよ」
は?椎名さんの強弱の無い冷たい印象を齎す声が自分の肌を撫でる様に、いや違う。絡み付く様に、肌へ擦り込んで行く様に、脳に響いた。「は?」思わず、声が漏れる。
「キリカは人間じゃないよ。今更だと君も納得出来るだろ?」
「で、でも」
「魔法少女だとはいうけれど、キリカは人間ではないよ」
「僕を襲ったあの怪物と一緒だというのですか?」
「そうだね」椎名さんはそう言いながらお茶を啜る。「君を襲った様な怪物や学校を潰した怪獣。その中で一番の最上ランクの様な所に君臨しているのが魔法少女だよ」「・・・なるほど」理解なんて出来る筈がないのに頷く。「あとさ」ついでにさ、と同じ様な口調で椎名さんが僕の顔を見つめる。気味が悪いからやめてほしいのだけれど、椎名さんは僕の目を見つめたままこう吐いた。
「君も、人間ではないよ」
「そうですか。…え?」
椎名さんの視線が恥ずかしく顔を俯いていると、耳に流れ込んで来た椎名さんの声で思わず首を上げる。またしても、は?だった。
それはさすがに信じれなかった。たとえ何をされても死なないとはいえ、僕は立派な学生だ。心臓が破裂しようが内臓が飛び出ようが、人間だ。違う。これって人間じゃないな、とすぐに脳裏に浮かんだ。人間が不死身?ありえない。自分自身の体に疑問が浮かぶ。元々から自分は人間じゃなかった?キリカちゃんやあの怪獣と同じ化物?「君はキリカと同じで魔法少女に分類されるね。その人間の様な体付きは」椎名さんはお茶を丁寧に啜りながら淡々と話す。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」自分は椎名さんの話を中断させる様に割り込む。「さっぱりわかりません!」と必死に喚く。
「とか言いつつ、気付き始めていただろ」
僕の背後にキリカちゃんが座っていた。いつのまに?キリカちゃんはお茶を啜っている。もしかして、全部聞かれていたのだろうか?確かにこれは「人間じゃないな」と言えた。
正直、怪物の存在はもう納得していた。ここ最近で二体もお目にかかった。どちらとも見た事のない原型で、見るからに怪物だった。しかし、キリカちゃんや自分がそれと同じ、と言われて「ああそうですか」なんて簡単に頷ける筈がなかった。「私もお前も。人間じゃない」キリカちゃんの声は、氷の様に冷たい。
†
キリカちゃんを一言で表すと「クリオネ」だと思った。普段は流氷の天使だなんて言われる程、幻想的で美しいが、捕食となると凶暴さが露となり、元の美しさなどがまるで嘘かの様に一変する。まるでキリカちゃんではないか、と脳裏で呟く。
「なにが私だって?」
キリカちゃんの声が耳元で響いた。「ひょえっ」と気味の悪い驚き方をし、羞恥心を覚える。「き、キリカちゃん。いたんだ」「うん」キリカちゃんの返事は早い。「んで、何が私だって?」
「いや、なんとなく「クリオネ」と君って似てるなあ、と思って」正直に言うと「なんだよそれ」と呆れた口調で返して来た。
僕もそのキリカちゃんの冷たさを伴う口調に慣れてしまったのか、思わず苦笑した。「なんだよ」とキリカちゃんがすぐに反応して来る。僕はなんとなくだけれど、こんな事を訊ねてみた。
「ねえ。キリカちゃん」
「なに」
「今度、いや明日さ」
「うん」
「遊びに行かない?」
「は」
「二人で」
「なぜ」
「なんとなく」
「行ったらいいんじゃない?キリカ」そこで椎名さんが間に割り込んで来た。とても楽しそうな表情だ。目は閉じているけれど。
徐々に分かって来た気がする。自分は人間じゃない、とすぐに諦めた。そうだな、これは人間じゃないな、とすぐに理解出来た。
煩悶が解け、すこし身が軽くなった様な感覚もした。深く考えないって大事だなあ、と実感する。
人は与えられ、失って変わって行く。
久々ですね。魔法少女も続いてますよ。 この作品は自分らしくないファンタジーだけれど、このぶっとんだ感じが書いてて面白いな、とファンタジーの良さが分かって来た気がする。