孤独と戦う少年少女Ⅲ
今回はバトル回です?
†
「キリカもね。戦う理由なんてないんだよ」
「どういう事ですか」
「君と一緒さ、君が生きてる理由なんてない、と言ってるのと同じ」
「はぁ」
「キリカも。生れつき死ねないんだよ」
椎名さんはお茶を啜りながらそう吐き、「んじゃおやすみ」と言って和室を出て行った。それが、昨晩の夜に話した内容だ。キリカちゃんも戦う理由は無い。だけれど、戦ってる。それは死なないから?僕は生きている理由がない。だけれど、こうして空気に浸かっている。それは死なないから。
「認めたくないなあ・・・」と夜空を見上げながら呟いた。二日目は特に何も無く、椎名さんの家事手伝いなどをしていた。元々そういった事が嫌いではない僕は自らも進んで取り組んだが、キリカちゃんは苛立ちを隠せない様子で、僕を睨んでいた。まだ僕が椎名さんが話した内容に付いて気が拗ねてるらしい。
「ミサキさん。天国でもモテモテなのかな」
僕が密かに好意を抱いていた彼女の名はミサキという名前だった。結局まともに話す事も出来ず、さん付けのまま、虚しく終了した。人はみな、孤独になる事に恐れ戦いている。僕は、ただ単に一人になりたくなかった。と、いう事だ。
けして命が止まる事の無い自分の体を見つめながら溢れ出そうになる。すぐに拭おうと右手を上げようとした時だった。「なんだ、あれ」
約二百メートルといった所か、辺りは漆黒の闇に覆われ、目が眩み姿を確認する事は出来ないが、闇の様な漂う霧に包まれた『何か』が、そこにいた。約二百メートル程度離れた位置に、漂う闇に包まれた『何か』が。
何だあれは、と目を細めて見つめる。が、辺りが暗闇でやはち確認は出来なかった。闇の霧から微かに覗ける淡いシルエット。それだけを見ても言える事があった。二百メートル程度離れていても、その大きさに身を引いた。学校襲った怪獣と比べればそりゃあ小さいが、人間の可能性は無い事はすぐに把握出来た。
「なん・・・だ、ありゃぁ・・・」
思わず声が漏れた瞬間、霧に覆われた『何か』の姿が消えた。瞬きより早い刹那。霧は晴れる事無く淡く映るシルエットだけが消えた。そのシルエットの正体が、僕の目の前に立ち塞がっていた。「は?」その瞬間に内臓が突き破られる様な威力の衝撃が体を吹っ飛ばした。呼吸する間も無く、一瞬で吹き飛び、それまた約二百メートル程先のビルに背中から突っ込んだ。入り口のガラスを突き破り、破片が飛び散る。そのガラスは入り口だけじゃなく、このビルすべてのガラスが粉砕した事に気が付く。
動きが止まり、目を開けようとすると全身が痛みに飲まれ、体が動かなかった。ビルの入り口が派手に突き破れており、ガラスの破片が散り舞った地面の上だからか背中がひりひりしている。
何とか痛みを堪え、怪物の方に目をやる。怪物がいた位置からは煙が上がっており、肝心な怪物の姿は無かった。まさか、と察した瞬間にビルの天井が鈍く軋む音を轟かせた。何十階とあるビルの室内を一段ずつ突き破って行く音が徐々に大きくなって行く。自分が思うに、ヒップドロップの様な体勢で僕を潰しにかかっている様だった。
「うああああああああああああああああ!」
歯を食い縛りながら体を起こし、外に出ようと足を動かす。堪えろ、堪えろ、と歯を強く噛み締めながら入り口を出た。突き破られた入り口から体を出した瞬間にビルがダイナマイトで爆発した様な轟音と何十階とあるビルが屋上から崩れ落ちて行くのが確認出来た。空から降って来る瓦礫にでも当たったら、とすぐに察しより遠い所まで進もうとしたが遅かった。渦を巻きながら巨大な埃煙が舞い上がり、その威力で僕の体も吹き飛んだ。
皮膚を削るように地面を転がり回り、肉が露となる。「いってえ・・・」体制を戻そうと足を前に出そうとした刹那。怪物が煙の中から姿を現した。「ひぃ」と戦慄の声が漏れ、すぐに逃げようと背を向けた一瞬の隙だった。
†
「え?」怪物の丸太の様な太い腕が僕の左足と一体化していた。合体?自分の左足の膝辺りから怪物の腕が生えている。「ひぃ」再び悲鳴を漏らした瞬間、僕の左足の膝から下が、破裂した。吹き飛んだのではない。破裂したのだ。肉が急速に風船の様に膨らみ、その圧力で骨が粉砕する。皮膚は膨らみ続ける肉に耐え切れず引き千切れ、肉自身も耐え切れなくなった。結果、破裂し、派手に破片などが宙を飛び散る。それが瞬きよりも早い時間で起きた。血の気が引き、悲鳴も零れず、遅れて来る痛みが体を蝕んだ。血管が視界に映る。急速に内臓が渦を巻き、嘔吐しそうになる寸前で視界が闇に襲われた。
朦朧となったままの意識で霞む視界を再開させる。何故か僕の足は地に着いていなかった。何故だろう、なんていう疑問も浮かばず、ただ足元に目をやった。
「ぅ、そ・・・だ、ろぉ・・・?」
怪物の腕が僕の腹を突き破り、貫いていた。僕の体液が大量にかかった腕で僕の体内にある器官を握っていた。蛇の様な毛細血管。内臓。小腸。地面にボトボトと落す。そんな馬鹿な、と貫通した腕を見つめる。意識が霞んで行き、朦朧としたまま軽くなった僕は地面に叩き付けられた。勢い良く叩き付け、その威力で地面が波紋を描く様に凹んだ。
僕は夢心地のまま空から降って来る怪物の姿を確認する。怪物の勢い良く重みを付けて来た威力で僕はさらに地面に潜り込んで行き、馬乗りという形になった。僕の腹の上に怪物の重みがすべて掛かり、皮膚が耐え切れなくり、あちこちで肉がブチッと食み出した。
右腕の脇部分も耐え切れなくなったのか、勢い良く引き千切れ、吹き飛んだ。怪物は僕の顔を覗きながら両腕を頭上より上に上げる。僕の顔面でも潰すつもりなのだろうか?淡く視界が歪んで行く。あれ、死ぬのかな、僕。なんだ、死ねるんじゃないか。人はみな、独りになる事を恐れている。死んだ後の世界など誰にも分からない。だから人はみな、死を恐れる。それは、僕もだった。
先程まであれ程死にたがっていたのに、恐怖心が湧いて来る。怪物の両腕は僕の顔面を捉え、勢い良く振り下ろした。その瞬間、視界は真っ白にへと変わり意識が無くなる。筈だった。
†
「ったく」何とは聞き取れなかったが、聞き覚えのある少女の声が聞こえた。視界は霞んだままだが、確認出来た。桃色と白をベースとしたあのファンシーな格好をしたキリカちゃんが、怪物の背中に足を着けながら、腕を後ろへ引っ張っていた。その銀色の軌跡から溢れる無数の幻想的な粒子が漂う闇の霧を彩った。
「、リカ・・・ちゃ、ん?」僕が精一杯の声を絞り出すと、彼女はそれを掬い取る様に「どうしたらこんな派手にボロボロになんだよ」と返して来た。珍しく長い言葉だったからか、僕は思わず苦笑した。
ヒーローは遅れてやって来る。お約束だな、と頬が緩んだ。僕は主人公にはなれないわけだ。そして、キリカちゃんは怪物の腕を後ろへ引っ張りながらこう吐くのだ。
「お前、助けてあげる」
何故か僕の脳裏に、彼女が持っていた拳銃が過ぎった。
はい!いい感じで進んでおります!テンポが速いでしょうか?