孤独と戦う少年少女Ⅰ
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「大人はみんな無責任だよな」そんな事を友人は雄弁と語り出した。その友人は僕が好意を抱く異性を奪った張本人だった。「子供に叱る時だけ気取って、大人も大して変わねーつうの。矛盾ばかりで理不尽だぜ」
正直、僕は煩わしいなと陰鬱していたのだけれど、怒りを堪える様にして話に耳を傾けていた。失恋の結果が目の前にいる。それは僕の韜晦癖が原因だというのに、人間というのは愚かだ。
単なる嫉妬。ただそれだけの大罪。
「無責任なのは、君の方じゃないかな」
嫌味交じりの嫌気。僕は素直に、この友人と友達という関係を終了したかった。不快だった不愉快だった、只の嫉妬だった。そして、その日からその友人では無くなり、他人という存在になった。
「人間というのはね、与えられ失い変化して行くんだよ」椎名さんはそう言った。まさにその通りだと関心する。すべて失った今にとっては、それも後悔の倒壊だ。「人間というのは、そんなもんだよ」
椎名さんはお茶を啜りながら開く事の無い瞼で僕を見つめる。「キリカちゃんとは仲良くなれたかい?」椎名さんが相変らずの微笑で僕に訊ねて来る。「これからしばらくは一緒だから仲良くしてね」
僕は戸惑いながら「・・・頑張ります」と徐々に弱くなる声を出す。「まだ、信じれなくて」
僕はまだキリカちゃんが自称する言葉を信じてはいなかった。曖昧模糊とした感覚で、訝るばかりだ。「まあ、そうだね」と椎名さんは案の定の返事だ、と苦笑する。
先程、キリカちゃんは「魔法少女」と、ただそれだけの単語を吐いた。「私はただの魔法少女」その非現実的で理解が難しい単語に、僕は戸惑う。「魔法少女?なにそれ」
魔法少女と聞いて浮ぶのは、ファンシーな格好に身を包み、派手なステッキを振り回す幼い少女の姿だった。益々戸惑い、キリカちゃんの表情は真剣気まわり無く、幻想的な髪を覗くと嘘とも思えないのが苦難だった。しかも、僕と初めて出会った時、確かに少女趣味な衣装だった。拳銃を持っていた事も脳裏に過ぎる。
「まぁ信じられないのが普通だよね」
椎名さんが笑う。そりゃあそうだ。まだ自分自身の身体の謎も解けていないのに、魔法少女なんて言われても煩悶するのみだ。「でも本当にいるんだよ。魔法少女って」
椎名さんは「君はその前に怪獣を見ただろう?」と笑いながら訊ねて来た。僕は確かに、と異常な程の非現実的な光景は最初から目を通している。人間が蟻の存在に気付かないのと同様に、ゴジラの様な怪獣は僕達を蹂躙した。なのに死んでいない自分にも疑問を覚える。自問自答の繰り返し、連鎖。
「僕はね、君に期待をしているんだ。淡くね」
突然、椎名さんが呟く。急な言葉に目が泳ぎ、僕はとりあえずお茶を啜る。ずずー。「それは、どういう意味ですか?」怪獣に踏み潰されて孤独となった僕に、韜晦で倒壊の弱者の自分に、期待をする?さっぱりと言っていい。理解が困難だった。
「キリカはね、昔から一人なんだよ」椎名さんは目を閉じたまま話を続ける。「友人はもちろん。知り合いも僕くらいだ」椎名さんは寂しさを滲ませながら声を吐く。キリカちゃんも一人ぼっち、という事か。
詰まる所、僕とキリカちゃんは似た者同士とでも言いたいのだろうか。「魔法少女、にねえ・・」息を吐く。何も実感が湧かない。曖昧模糊とした歪んだ感覚。椎名さんは僕の顔を窺い、訊ねて来た。「君は生き残った事を後悔しているのかい?」
はい。三話でした。
最近叙述トリックにハマってます。でも出来ないワケです