血液を操る少女Ⅱ
あれ、恋ントス終わってねーぞ。ん?
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夢は誰でも見るものだ。夢というのは、現在の自分では成す事が出来ない事を無意識に脳に映像として送り込む。韜晦の閉鎖空間に閉じ込められた僕は、毎日の様に見る夢は大体が好意を抱く女子に告白をするシーンだった。緊張と不安の境目に挟まったまま心地よいものではない。そして、いつも答えを聞く前に僕の映画は闇の幕が降りる。「なんで夢なんだよ」
目玉が摩擦を生じて熱が冷める事も無く蝕ませる。そんな現実が続いていた。今思えば、それでもいい。そんな現実でも続いて欲しかった。韜晦で倒壊の連鎖の中でさ迷い続けても良かった。僕を一人にはして欲しくなかった。孤独は嫌だ。寂しい。悲しい。切ない。虚しい。死にたくなって来る。なのに死ねないのだから、「夢であって欲しかった」
続く筈の現実は蹂躙された。なにも始まらず、終わりを告げずに闇に浸食されて木っ端微塵。なのに僕は死なない。死ねない。内臓を抉られても死んでいない。それは失恋よりも辛い。韜晦よりも悲しい。倒壊よりも蹂躙。
「さて、ちょっと待ってて。あ、死んでて」
目の前にいるファンシーな格好をした少女は瓦礫化とした地面を跨ぐ様に歩き、闇に姿が消えて行く。なんだったんだろう。全身を捻り抉る痛みも消え去る様に引いて行く。「死んでて、って・・・」出来るものならこのまま死んでしまいたい。
そうなれば楽だろうし、こんな現実も夢に変わる筈だ。変わるのだろうか?何か一つ思い浮かぶと、すぐに否定と拒否が浮ぶ。どれだけネガティブなんだよ、と自分に苦笑する。「本当、に・・どうか、してる・・よなぁ」派手に内臓も削れたのに、足も見事に千切れてるのに、生きてるんだもんなぁ。
「お待たせ」
少女が暗闇から戻って来、僕に近寄り膝を屈してしゃがんだ。「そんじゃまたな」その少女の声と共に拳銃の咆哮が響き渡った。
え?殺されたのか?「なん、だかなぁ・・・」ああなんて僕は馬鹿な死に方をするんだ。撃たれるなんて。しかも少女に。夢は誰でも見るものだ。そりゃあ僕も男の子だ。何度もそんな淡い希望を望んだりもする。たとえそれが好きな子じゃなくても、ファンシーな格好をした少女がしゃがみ込んだ際に僅かに覗けたパンツは、白色だった。これは現実で良かったなぁと。
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僕が好意を抱いていた女子は、僕以外の人からも人気だった。毎日僕の知らない男子に囲まれていて、それを物陰に隠れて見るだけの僕は。『マコト君。私の事、見てる?』
目が覚めた。和室の天井?独特の匂いが充満している和室に、僕は寝ていた。「何処だここ?」辺りを挙動不審の様な動き方で見渡す。僕は死んだのだろうか?と脳裏に過ぎる疑問。あれ、生きてる。という安堵感。いや、安堵と言えるのだろうか。まだ死んでいないのか僕は。全身から疲弊が抜けた様に何故か身体は弛緩していた。逸脱し過ぎて把握すら出来ずにいると、和室の扉が開いた。
「あ、起きたんだね」
男性だった。何故か目を瞑っており、花粉を被った様な黄色い髪に目を奪われる。「あ、僕の名前は椎名だよ」椎名と名乗る男性はお盆に乗せてあるお茶を僕の近くに置き、その場に座る。椎名さんもお茶を取って啜っていた。「君すごいね。本当は今頃死んでる筈なのに」椎名さんが瞼を瞑ったまま口を開く。目を開ければいいのに、と率直な疑問を抱くが、聞くほどではないかと放棄する事にした。
「あの、僕は生きてるんですか?」無い筈の左足は何事もなく存在し、肉が捻り抉られた腕は傷跡一つ残さず再生していた。そして腹部。柱が内臓を潰し、歪な程に粉砕した傷もちゃんと戻っており、皮膚の中には内臓も詰まっていた。「あぁ生きてるよ」椎名さんは微笑みながら「感動した?ねぇ感動した?」とからかって来る。
生きている?生きるってなんだ。傷が戻っている事に目元の下が怯む事に生きているという実感が湧く。死んでいるのかもしれないのに。
右手の平。指が動く。間接が曲がる。目元が潤い、視界が歪む。そうか、生きているのか、僕。友人も家族も好きな子もみんな死んだ。僕は一人だ。孤独で韜晦、後悔。
「いい感じの感動シーンにウチとうじょー」
その時、和室の扉の方から聞き覚えのある声が聞こえた。その方へ目を向けると、一瞬別次元かと錯覚が生じた。蒼白く細かい粒子。淡く幻想的な少女に目を見張る。
「あ、あのときの・・」ファンシーな格好をした少女だ。だが、あの時の少女趣味な服装ではなく、至って普通だった。光の粒子を空間に撒き散らかす銀色の髪は二つ結びとなっており、また違う雰囲気を感じる。しかし、なんだあの粒子。フケな訳は無いだろうし、そもそもあんなに幻想的なフケがあって堪るか。
「あ、キリカも来ていたのか」遅れて反応した椎名さんは眠そうに目を擦り、瞼が開くかと思ったが閉じたままだった。って寝てたのか。
「あんた、起きたのか」
キリカと呼ばれる少女は立ったまま僕を見下ろし、「もう死んだかと思った」と氷の様な冷たい事を浴びせられる。今の季節は暑い筈なのに。「まぁまぁキリカ。君が助けてあげたんだから・・・」椎名さんはそう言って、「僕は何か作ってくるよ。まぁキリカと仲良くしてやってくれ」と僕に言い、ニコッと微笑んだ。よく歩けるなぁと素直に凄いと思う。扉が閉まり、静寂が生まれる。気まずい。脳に過ぎるのは、白のパンツだった。そんな自分を殺したい。でも、死ねない。
「あんたさ、何で死なないの」
「え。何でだろう」
少女は口調の割には行儀正しく和室の畳に正座していた。「あ、のさ。僕ってどうなるの?」今一番思う事はこれだった。あれだけ巨大な怪獣なのだから、当然家も潰れただろうし、両親はどうか知らないが僕のこれから、というのは知りたかった。幻想的な光に包まれ、畳に鎮座している少女は「とりあいずココでしばらくは面倒見るとは椎名さん言ってた」とキリカという少女は返し、そのまま正座で足が痺れたのか横になって肘を立てて頬杖を付く。こっちの体勢の方が貫禄が出ていた。それとこの粒子は何。
「そ、そっかぁ・・それじゃ、しばらくの間宜しく、ね?」
「え、あぁうん」
会話終了。慌てて話題を考える。
「あ、何て呼べばいいかな?」
「キリカでいいよ」
それじゃキリカで。という事は僕には備えて無く、ましてやこんなに年齢の近い子をいきなり呼び捨てなんて僕には妙な緊張感があった。「キリカ、ちゃんで・・・」
「ちゃん付けかよ」
「キリカさん?」
「さん付けは嫌」
「キリカ様?」
「益々いや。ちゃん付けでいい」
こんなに異性と話した過去がない僕は、妙な緊張で手の平に汗が滲んでいた。そして、一番気になる質問をする。「じゃあ、キリカちゃん」
「君はなんなんだ?」
はい、二話目できちゃいました。 恋ントスも今書いているので・・・あとタイトル、あらすじ完成いたしました! あらすじは結構気に入っています。 「僕は君のために死なないよ」このセリフは本編でも出るので・・・ってネタバレ?




