最後は必ず『存在』し、つまり儚い。2
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このタイプの怪物に出会うのは、何年ぶりだろうか?キリカは、拳銃に弾がセットされた事を肌で感じながら久々の高揚を覚えていた。最近出会う怪物はどれも雑魚ばかりだった、と退屈していた。
「やっぱりマコトは逃げてて」
キリカはそれだけマコトに伝え、怪物がいる方へ姿を現す。「おいそこの奴。喧嘩しようぜ」と余裕な口調で挑発する。怪物はキリカの声に気付いたのか、涎を派手に飛ばしながら振り向く。「さてと」キリカは右足で軽く、地面を蹴る。そしてそのまま右足を振り、怪物の小さい左足に蹴りを入れる。
怪物はあまりの一瞬の出来事で困惑しているのか、何が起きたか分からない状態のまま何百メートルと吹き飛んだ。地面には一直線に亀裂が走り、ゴールシュートの如く遠くに建っていた建物が爆発した。
キリカは「最近はこれだけで死ぬのばっかりだったからなあ」と呟きながら、銃口で遠く離れた怪物を捉え、興奮していた。体内に流れる血液がどくん、と弾んだ感覚を覚える。一発分の銃弾を作り上げた。
「楽しんでるじゃない。キリカ」そこで声が聞こえた。キリカは後ろへ首を振り返る。
「…お前」
そこに立っている人物を見て、キリカは思わず驚愕した。何故こんな所にいるの?、と脳裏に浮ぶ。「なんでこんなとこ」
「追わなくていいの?」女はキリカが蹴飛ばした怪物の方へ指を指す。キリカは釣られる様に振り返り、「しまった」と声を出す。「今、アナタと一緒にいた男の子の元へ向かってるわ」女はそのまま言葉を続ける。「もしかしたら」
「死んじゃうかもね?」
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何故だ?何故僕を狙う?煙を引き裂く様に怪物は姿を現し、再び僕を捉える。すぐに僕も立ち上がり、身を構える。僕は不死身だ。不死身だ。と何度も唱えた。
そのまま僕の方へ突っ込んで来ると思っていると、怪物は小さい足で地面を蹴り上げ、空にへと上がる。空も飛べるのかよ、と軽く絶望が背中から襲う。
空に上がったかと思いきや一瞬。道路に乗り捨てたまま放置してあった黒い車が爆発した。さらに、その車だけでは無く、道路に並んだ大量の車が次々に爆発して行く。炎が派手に飛び散り、あらゆる場所へ燃え移り、拡散する。炎は止まる事を知らずに、波紋の様に広がって行く。僕の肘から噴き出た血にも炎が触れ、僕の足元を追跡してくる様に炎が広がる。
その爆炎の壁に奇麗な穴が出来た。僕はすぐに怪物だ、と悟り、何処でもいい、と身を逸らす。予想通り怪物は元いた僕の場所目掛け突っ込み、怪物の体にも燃え移っていた炎を地面に擦り付けた。
「なかなか頭良いじゃねえかよ…」
僕はすぐに脳を人の倍起動させる。怪物はこの様に炎を広げ、僕が攻撃を避けれなくするつもりだ。どうやら確実に僕を食らいたいらしい。
相変わらず奇麗な形に抉られた地面は皹一つ入らず、薄い煙だけ上がっている。怪物が再び姿を現す。僕を睨みながら真っ直ぐではなく、横へスライドする様に飛んだ。
目で追う事が出来ず、建物を見渡す。その瞬間、歩道の横に並ぶように建っている建物が一件ずつ、円型の半径の形を保って一部を奪われて行った。次々と削って行く。来るぞ、と身を構え掬われて行く建物を目で追う。追いつく事は無い。僕を通り過ぎ、そのまま進んで行く。すこしした所で、電柱柱が根を奪われ、横転した。もう一度、来るぞ、と自分に言い聞かせる。横転した電柱柱に沿う様に、地面が派手に凹み、そのまま僕の方へと引き寄せられて行く様に突っ込んで来た。
「来るぞ来るぞ来るぞ…」自ら声を出し、脳を直接刺激させる。
今だ!脳内で叫び、炎が広がっていない方へ身を逸らす。怪物はまたしても宙を切るだけで空気を掬っていった。何がしたかったのだろうか?と奇麗に彫られた建物へ目をやると、すべての建物が火事となっていた。「これは…やばいな」思わず声が漏れ、口が塞がらない。
「確かにね」そこで僕の横に、風が切った。髪が靡き、次は何だ、と戦々恐々とすると、それがキリカちゃんだと気付いた。キリカちゃんが、僕を助けに来てくれた。遅れてやってくるヒーロー。もちろん、あの格好で。
「何処行ってたんだよ!」嫌味をぶつけ、すぐに頬が綻ぶ。体に溜まる疲弊などがすべて吹き飛ぶかの様な安堵感だった。
キリカちゃんは怪物の方へ銃を向け、僕を助けてくれた時と同じ表情を見せる。そして、躊躇無く引き金を引いた。
銃口から銃弾が放たれ、咆哮が耳内を襲った。鼓膜が千切れそうだが、遅い。僕はただ安堵していた。
だが。
その瞬間に視界が一変する。後ろから前へと建物が吹き飛ばされて行く。何だ、と思った頃には僕は何かに背を強打していた。そのまま引力の様に頭部も激突し、朦朧となる。僕は前にもこんな事があったな、と記憶が脳に浮かぶ。すぐに吹っ飛ばされたと理解出来た。
「会いたかったよ。マコト君」
え?朦朧となっている脳の中に聞き覚えのある女性の声が響く。徐々に朦朧が解けて行き、ぼやけた視界も回復して来た。けれど、女の声は直接脳にへと流れ込んで来る。
「何してたの?」「死んでなかったのね」「当たり前か」「キリカとはどう?」
まさか。まさか?まさか、まさか。僕は直接広がる声に耳を傾け、神経を集中させ、その声だけを固定する様にゆっくりと何度も味わう。ぎゅ、と汁を絞り咀嚼する。間違いない。幻聴なのか。幻なのか。
「悶えてるね」その瞬間、僕の左肩に風が切った。もう怪物が追って来たのか?と思ったが、今度は違う。「空気」そのものだった。空気が一瞬だけ手裏剣の様に変形し、僕の右肩を切った。服を簡単に切り裂き、皮膚に切れ目を入れる。その程度だった。血も僅かにしか出ておらず、安堵する。
だが、その安堵は絶望にへと変わる。
その切れ目から、赤く、皮膚を一瞬にして爛れさせる様な熱を放つ炎が飛び出た。「うああ!」その炎は切れ目に沿う様に燃え、決して飛び移ったりはしない。そのかわり、浅かった筈の傷は炎で焼かれて行き、肉まで達した。
誰だ。誰の力だ。僕を吹っ飛ばした奴は誰だ。
誰だ。
まさか本当に?今まで脳に響いていたあの声が。あの声の人物が正体なのか?幻聴の筈だ、と言い聞かせる。「悶えているね」悶える、なんて言葉はあの人しか使わない。
「幻聴じゃないのよねえ」
先程まで脳に直接響いていた声は、次は耳から擦り抜ける様に聞こえた。声がした方へ目をやると、その人物に目を見開いた。
キリカちゃんとは違う神々しさを漂わす黒髪は腰まで伸びており、ツインテールとなっている。服装もキリカちゃんとは違う夢を見すぎた格好だった。全身が黒でまとめられており、レースの様な薄い生地の黒のドレスには橙色のフリルが一部飾っており、その対照的な色がより深く暗黒の雰囲気を醸し出していた。
「なんで…」僕は驚愕が隠せず、瞬きすら忘れる。「なんでいるの?」
「ミサキさん…」
次回最終回です! いや、これで終わりでもいいですよ? それじゃあ…次回はエピローグです!




