序:二度目の戦国
SF戦国時代ものという良く分からない小説ですがよろしくお願いします。
かつて、日本は武士の国だった。
男達は鎧をまとい、刀を手にして、果てなき野望を追い求めた。
しかし、文明開化以降、銃器を始めとする兵器の台頭によって、刀はただの刃物になり下がり、武士はただの人となった。
それでも、時代は巡り、万物は流転する。
世界最強の軍事大国と化した『大日本帝国』。
その強大な軍事力の中心にいるのは、かつての武士の魂を継ぐ者……『SAMURAI(侍)』だ。
『SAMURAI(侍)』達は特殊強化外骨格『YOROI(鎧)』を纏い、最先端の科学武装『KATANA(刀)』を握る。
―― 世は、二度目の戦国時代。
●
文明が発達し、圧倒的武力を背景に再びの鎖国状態と化した日本は、行き過ぎた地方分権政策の影響で中央政府よりも各地方自治体の方が発言力が強まってしまった。
地方に権力が分散し、半ば複数の国の集合体と化した日本で、あるものは平和の為に、あるものは己の野心のために戦っている。
斎藤秀行という少年も、その一人であった。
漆黒の『YOROI(鎧)』……『無月六式』を身に纏い、主武装たる『KATANA(刀)』……『不落K-08』を振るう秀行は、まるで影の如き様相であった。
秀行は暗殺者だ。
関東一体を納める大名・織田原信行の家臣である秀行は主君信行の命により、四国を治める小大名・前田博隆の領土に単身で乗り込んでいる。
前田の首を取り、四国を手にせよとの命。
前田に自主的な降伏は望めず、単身にて四国一軍と徹底抗戦に臨んでいる形だ。
とはいえ、所詮小大名の軍。
率いているのは戦車、戦闘ヘリ、戦闘機、ミサイルの類、あとは歩兵と大小無人機が数千といったところ。
現行で核兵器を除けば、世界最強の戦力たる『SAMURAI(侍)』を止められるわけがない。
斬!
斬、斬!
斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬!!
斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬!!!
飛び交うミサイルを斬る。
それをばら撒く軍用ヘリを斬る。
戦車を。
大砲を。
銃弾を。
兵士を。
建物を。
あらゆるすべてを、斬る。
立ちはだかる敵を蹴散らし、止まる事なく疾駆して、瞬く間に秀行は四国は前田の居城『高知城』の最上階に辿りついた。
『城』といっても、実際に『城』があるわけではなく名、そういった名前を付けているだけの高層ビルだ。
かつては城を築く事で外敵を退けられたかもしれないが、文明が発達した今の時代、テクノロジーとシステムに守られた最先端ビルの方があらゆる点で身を守れる。
最上階、前田がいる部屋には、厳重なセキュリティーが施された分厚い扉によって硬く閉ざされている。外側からは専用のカードキー認証、指紋認証、声紋認証、パスワード認証という四つのガードを突破しなけれ開けられない。
もっとも、『SAMURAI(侍)』という存在には、他のあらゆるテクノロジーは用をなさない。
扉の前、秀行が『不落K-08』を一振りした。
すると、分厚い扉が真っ二つ。まるでバターのようだ。
『不落K-08』は振動の『KATANA(刀)』。
一見すれば刀よりもナイフに近い印象を受ける小太刀。
しかし、何の変哲もないように見える刃先には、数万ナノサイズの極小の刃が並んでおり、それが毎秒数億回という速度で振動するため、対外のものは苦もなく斬れる。
今のところ、斬れないのは『YOROI(鎧)』の装甲くらいのものか。
量産型の『KATANA(刀)』で、最近では『不落K-08』に斬られないという前提の素材開発が行われ、実際に世に出たりもしているが、それでももう数年は現役を張れるであろう武器だ。
扉があった場所をくぐり、中に入るとそこには一人の『SAMURAI(侍)』がいた。
青を基調とした『YOROI(鎧)』……『天海2S4N』を身に纏った男。
得物は槍……だが、『SAMURAI(侍)』が手にしている以上、その槍も間切れもなく『KATANA(刀)』。
『KATANA(刀)』とは形状に関係なく、『YOROI(鎧)』専用に開発・装備された武装の事を指すのだ。
「よぉ、若造。一人でよくもやってくれたなぁ。まぁ『SAMURAI(侍)』ならこのくらい当然か。だが……この俺は倒せんぞ?」
楽しそうに笑う豪放磊落な男。
おそらく、彼こそ……倒すべき相手。
「我こそは、四国全域領主前田博隆である! 若造、名乗りを上げていざ尋常に勝負せい!」
勇ましく名乗り、槍を構える。
なるほど。小国とはいえ、一つの国を束ねる将と言うだけの事はある。
それだけの迫力が目の前の男……前田博隆にはある。
曲がりなりにも秀行も武人。
名乗り返さぬわけにはいくまい。
「……関東制覇織田原信行が家臣、斎藤秀行と申す。若輩の身なれど、その首、貰い受ける」
そして、名乗ると同時に秀行は飛び出した。
秀行のYOROI(鎧)『無月六式』は速度と敏捷性、近接戦での攻撃力に重きを置いて設計された強化外骨格だ。
本来は肩や胴、股間、頭部などにある装甲を全て排除し、変わりに人工神経のような役割を果たす頑丈な金属繊維を編み込む事で、軽量化と瞬間的な筋肉の動作速度向上を実現。
さらに各関節部には加速装置が装備されている。筋力アシスト用の装備ではなく、小型のロケットブースターのようなそれは、任意で推進力を発し、駆動系の動作を加速する。
今、地を蹴った秀行は『無月六式』によって脚力を20倍にまで引き上げられている。
加えて、全駆動系の加速装置を背面に向けて同時に解放。これによって加速した秀行の瞬間速度は通常時の実に35倍。
まさしく人間ミサイルと化した秀行を肉眼で捉える事はできない。
首を貰う。そう告げた。
だから、躊躇なく行く。
振動小太刀『不落K-08』にかかれば、仮になんらかの防御行動を起こしたとしても逃れられない。
必殺の『KATANA(刀)』を右手だけで持ち、横から前田の首を刈る。
ダメ押しとばかりに、右手の手首と肘の関節付近にある加速装置二つを再度爆発させる。
慣性を無視した極度の部分加速はYOROIで保護されているとはいえ秀行自身の関節にもダメージを強いるが、どの道これで終わり。
その首、貰った!
「!?」
と、思ったが、『不落K-08』は前田の首には届かず、銀色の膜……いや、壁か?
何かわからないが、とにかく銀色の物体が展開し、首への攻撃は阻まれていた。
「捉えたぁ!!」
そして、前田が叫ぶと同時、その銀色の物体は変形した。
その変化の様子は、例えるならば水銀。
まるで液体であるかのようにうねりながら形を変えるそれは、しかし確かな金属質の質量を持って、秀行を捕縛しようと襲いかかる。
「ッくぅ!」
咄嗟に加速装置を逆噴射させ瞬時に交代する秀行。
なんとか、その銀の物体の魔の手を逃れる。
あの物体はなんだ?
距離を取り、様子を窺う。
銀色の物体は一つの形態へと収束していく。
それは……槍だった。
先程前田が構えて見せた槍だった。
「ふん!惜しいのぉ。後少しで貴様を捕縛し圧殺できたというのに」
ニヤリと笑い、再び槍を構える前田。
「なるほど。その槍の『KATANA(刀)』……変幻自在というわけですか」
「応ともよぉ!これぞ我が四国が誇る最強武装『十面槍』。あらゆる形状に変形可能なこの槍の前で、間合いなど無意味!さらに先程貴様の小太刀を防いだように、持ち手の反応できぬ攻撃に対しては自動で防御にまわる優れモノよ」
そう、前田の握る槍型のKATANA(刀)『十面槍』は、通常時こそ槍の形をしているが持ち手の神経系に干渉し、思うがままに形を変える。
良く伸び、良く広がり、良く曲がり、質量の許す限りあらゆる形状に変化が可能だ。
しかも前田の言う通り、槍を操る『SAMURAI(侍)』自身が反応できない攻撃に関しては自動防御システムが働き、まるで膜の様な形状となって攻撃を阻み、その後触手のように攻撃した者を捕縛する。
まさしく、攻防一体の武装。
弱点らしい弱点と言えば、複雑な形状……武器(通常時の槍の形は除く)や生物の形に変化させる場合には相応の集中力と時間が必要というくらいのものだが、『十面槍』は元々金属であるため、長さを伸ばしたり、体積を広げたりといった単純な変形だけで充分な攻撃力を維持できる。
「次はこちらからいくぞぉ!!」
前田が叫び、わずかに距離を詰めながら槍を横なぎに振るう。
さらに後退しようと秀行はその場からバックステップ気味に飛びのく……が、避けたと思ったその槍は突如、急激に伸びた。
「くそっ!」
やむなく秀行は、己の小太刀『不落K-08』で『十面槍』を受けるようと構える。
「甘い!」
しかし、槍はさらにぐりゃりと曲がり、鞭の様な軌道を描いて襲いかかってくる。
よけきれない。
「くうっ!」
|十面槍が秀行の胴体に当たり、吹っ飛ばされた。
白銀の槍の一撃を受けた胴体には血が滲み、痛みが走る。
秀行のYOROI『無月六式』は加速力と俊敏性を高めるために軽量化されているが、その分防御力は低い。
低いと言っても、無論、銃弾やグレネード弾などの通常兵器には充分耐えきれるのだが、『KATANA』の一撃には耐えられない。
あばら骨が何本かイカれた。
まずい。
「小僧、これで終わりではあるまい?さぁ、立て」
秀行とは対照的に前田は笑い、また槍の形状に戻った十面槍を構える。
本当にまずい。
あの槍はリーチが読めない。
形状の変化が自在なため、避けたと思った攻撃が思いもよらない方向から襲ってくる。
また、秀行の武装『不落K-08』の間合いが短いというのも問題だ。
敵は無制限の間合いを持っている。近づくのは容易じゃない。
いや、近づけたとしても、その時は瞬時に敵の十面槍が変化し攻撃を阻む。
あの槍の変形よりも素早く動く事が出来ればあるいは突破も可能かもしれないが、加速装置を使用して攻撃しても防がれたのだ。
打つ手なし、か。
――普通なら。
「四国の覇者、前田博隆……貴様のKATANAは強い。それは俺の復讐に必要な力だ。早々に排除し、いただくとするぞ」
「ハッ!なにを……」
答えようとした前田は。
―――下半身をまるごとフッとばされて突っ伏した。
「ごぉ……馬鹿なぁ…ぁ!!」
血を吐きながら前田が叫ぶ。
YOROIを纏ったSAMURAIの体の一部を吹き飛ばすなどという事は、KATANAであっても用意ではない。
それこそ一国の大名だけが持つ、超破壊力の宝具級兵装でもなければありえない。
上半身だけとなった前田に近付き、秀行は最後の止めを刺す。
「お前の十面槍はいただく。俺が織田原信行に復讐するための糧となるだろう」
「貴様……自分の主を殺すために!!」
刀が振り下ろされ、前田は絶命した。
秀行は十面相を手に取り、ビルから飛び降りた。
向かうは関東『東京城』。
主君であり……復讐すべき相手でもある織田原信行の元。
これは近未来、復讐に生きた一人のSAMURAI(侍)の物語。
ありがとうございました。