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東方軍との最後の戦いの記録

 同じ日の夕刻、アクバルは再び資料室にいた。

 昨日の記録書を書棚に返すと、その近くの記録書を取り出す。そして、中に目を通す。

 目的の物でなければ再び書棚に戻し、次の記録書を取り出す。

 資料室にはアクバルが記録書をめくる音だけがしていた。


 「あった。あの話の続きだ」


 アクバルが震える手で、記録書の最後のページを開き、そこに目を通し始めた。

 黄ばみ、所々シミらしきものがある古びた紙に、少し色あせたインクで書かれた文字。

 そこにはこう書かれていた。


 「ユベール司教の力により、異教の神アスラを伴った東方軍をその王と共に異空間に封印した。これで、東方からの脅威は一掃された」


 「アスラ」


 アクバルは天を仰ぎながら、呟いた。その瞳には涙が潤んでいる。


 「やはり、我が祖先は何もできなったんではない。アスラを召還していたんだ」


 そう言うとアクバルはその記録書を抱え、足早に資料室を出た。


 高鳴る鼓動。

 早く真実を知りたい。

 アスラを召喚しながら、敗れた王国の軍。


 アクバルは三階に駆け上がると、自分の部屋に飛び込み、大きな音がたつことも気にせず、思いっきり椅子をひいて、そこに座った。

 重いものが落ちたような音を立てながら、記録書が机の上に置かれた。

 アクバルの呼吸は乱れている。

 一度、深く息を吸い込むと、その記録書を開き、読み始めた。


 そこに書かれているのは100年以上前に行われた東方の大国との戦争の最後の戦いの記録である。




 東方軍との戦いはすでに二回行われ、全て我らが勝利した。

 当初10倍はあった敵の戦力は我が方の2倍程度までに減っていた。

 2倍、通常ならその戦力差は大きなものだったが、敵は10倍の戦力で負け、5倍の戦力で立て続けに破れているのだ。

 2倍に意味はもたない状況だ。

 最早、敵が再び攻め込んでくる事はないだろうとみなが考えていた。

 もちろん、油断していたわけではない。

 しかし、彼らは再び攻め込んできた。

 それも今度は異教の神を連れて。


 名をアスラと言うらしい。


 その力を宿した者の力は凄まじく、腕を一振りするだけで、目の前の我が方の騎士団の体が鎧ごと真っ二つになった。

 瞬く間に我が騎士団は壊滅的な被害を被り、大公は勝てぬ相手と、素早く退いてきた。

 大公が頼ったのは我が教会のユベール司教の力だった。




 100年以上の前の事。

 並べられた長椅子に信者たちはおらず、二人の男しかいない教会の空間に、外の喧騒が静寂に身をおく時ではないとばかりに飛び込んで来ては、空気を震わせる。


 恐るべき異教の神。

 その噂はたちまちの間に広まり、逃げ惑う人々で公国の中は溢れていた。

 男は向かい会う男に言う。


 「ユベール司教。

 たとえ、異教のもであろうと、神と名づけられる力に人が抗えようか。

 我々にできる事は我らが信ずる神にすがる事のみである」

 「大公」


 そう言って、ユベールは頭を抱えた。

 ユベールの中に方策は浮かんではいた。

 異空間へ封印。そのために必要なものは魔法陣。

 しかし、一番の問題はその異教の神アスラをどうやって、魔法陣の中におびき寄せるか?

 解は無い。

 あるとすれば、広大な魔法陣で、敵軍全てを異空間に封印してしまうのだが、そんな広大な陣を準備をする時間はない。

 思案気に黙り込んだままのユベールに対抗が、肩を落しながらつぶやく。


 「我らが神にも打つ手は無いと言うのか?」


 大公の言葉にユベールは語り始めた。


 「策はございます。

 異空間に封印するのです。

 ですが、どこにいるか分からない相手を封印するとなると、巨大な陣が必要です。

 アスラと言う敵が敵軍のどこかにいるとすれば、敵全てを包囲する規模の魔法陣で封印する。

 そう言うことになります」

 「敵はすでに国境を越え、我が公国に迫っている。

 そのようなもの造っている時間は無いのではないか?」

 「左様でございます。

 それが問題です」

 「小さな魔法陣におびき寄せ、異教の神のみを封印する事はできないのか?」

 「確かに魔法陣を小さくできますが、二つ問題がございます。

 まずは、そこにどうやっておびき寄せるか?

 はっきり申し上げて、策がありません。

 そして、もう一つは騎士団がほぼ壊滅した今、敵兵力をどうやって倒すのか?

 でございます。

 この際、一気に蹴りをつけるのが確実でしょう」

 「なるほど。それはそうかも知れんが、そんな広大な陣を描く時間がないと言うなら、アスラをおびき寄せる方法を考えるべきではないのか?

 場合によっては、わが身を囮にしてもかまわん」


 大公のわが身をも犠牲にしてもかまわない。そんな強い意志を宿した眼差しに、ユベールも覚悟を決めた。


 「手が無いのなら」


 ユベールの言葉には何かがありそうだった。

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