東方軍敗走
目の前まで迫ってきた騎士団の勢いを感じた東方の王を警護する者たちは、慌てて動き始めた。
もはや、本陣の威厳を保つため、動かないと言うような状況にはなかった。
今から攻撃の出ている部隊を引き返しても間に合わない。
自分たちだけで防ぐ事はできそうにない。
彼らの出した結論は王の退避だった。
王を馬に乗せると、数騎だけが付き添い、戦場を離脱し始めた。
大公の騎士達の目的は逃げる王の首である。
しかし、敵の最後の警護の兵も死にもの狂いで、大公の騎士団の前に立ち塞がる。
大公の騎士団は群がる敵兵を突き刺し、倒して行ったが、時間がかかり過ぎた。
彼らの目的は自分達の王を逃がす時間を稼ぐ事であり。彼らはその目的を全うした。
その頃には本陣の異常を感じた一部の兵達が戻って来始めていた。
「くそっ。逃げられた」
騎士たちの指揮官は悔しそうに言った。そして、天を仰いだ後、騎士たちに指示を出した。
「歓声を上げよ!」
騎士たちに、このまま駆け戻ってきた敵兵と一戦を行う余力などない。
この場を切り抜けるには、敵の戦意を喪失させるしかない。
「万歳!万歳!
我が国に栄光あれ!」
次々に騎士たちから上がる歓声。
東方軍は姿の見えぬ自国の王と騎士たちが上げる歓声に、自軍の敗北を悟った。
王がいなくなっては戦う意味などなく、戦意を失った兵達はここで命を落としては犬死でしかないと、我先にと逃げ始めた。
風に乗ってかすかに届いた味方の歓声、そして撤退を始めた東方軍の動きに、諸侯は叫んだ
「追撃!」
背を向け逃げる敵を討つのは容易である。
さっきまでの苦戦が嘘のように、東方軍の敵兵たちを討ちに討ちまくった。
敵兵の半数近くを討ち取り、追撃が終わった時、辺りには敵兵の死骸の山が築かれていた。
記録はそこで終わっていた。アクバルは落胆のため息をつきながら、記録を閉じた。
「ここに書かれている事が本当なら、我が祖先は何も成し得ていない」
アクバルは机の上で、頭を抱え込んだ。そして、何かひらめいたかの様に頭を上げた。
「まだ王は生きている。我が軍も壊滅していない。
この戦いには続きがある。
きっと、この記録があった近くにあるはずだ」
一度落ち込んだアクバルだったが、自分自身を奮い立たせるため、そう言いながら、体中に力を込めた。




