戦いの行方
突進してくる東方の軍団に投石機が襲いかかる。
大きな岩に押し潰される敵兵達。
飛んでくる岩の恐怖は戦意をくじくはずだ。
しかし、彼らはひるむことなく、同胞たちの屍を乗り越え、突進してくる。
ブルゴーニュ大公の騎士団は圧倒的な数を前に固まる事もせず、小さな部隊に分かれ始めた。
攻めよせる敵の騎馬隊。
敵の主力は散らばったブルゴーニュ大公の騎馬隊には目もくれず、まとまって迎撃に向かって来る他の諸侯の騎士団に向かって行く。
騎士団と騎馬隊がぶつかる。
その数の差は圧倒的で騎士団は押され始める。
ブルゴーニュ大公配下のいくつもに分かれた小さな部隊が、敵の騎馬隊の背後から襲いかかる。
小さな部隊だけに大きなダメージを与えはできないが、攻撃している騎馬隊にとっては邪魔な存在である。
やがて、騎馬隊からもいくらかの兵が密集隊形を離れ、ブルゴーニュ大公の小さな部隊に襲い掛かる。
すると味方の部隊を襲う騎馬隊の背後を、別の小さな部隊が襲う。
挟み撃ち。
とは言え、部隊の規模は小さく、東方の騎馬隊に壊滅的な打撃を与える事はできないが、ブルゴーニュ大公の部隊も大きなダメージを受ける事を回避できる。
「まだか」
少し小高い丘の上から、戦況を見ていたブルゴーニュ大公は焦り始めていた。
すでに右翼の騎兵の争いは騎士団の敗色が濃厚だった。
中央の歩兵の争いも装備が堅牢な分、何とか持ちこたえてはいるが、そろそろ限界も近づいてきている。
ブルゴーニュ大公の騎士団が戦っている左翼だけが、押され気味とは言えまだ互角に近かったが、それでも総崩れとなるのは時間の問題だった。
戦況は同様に東方の大国の王も見ていた。
明らかに優勢な自軍の戦況に上機嫌だった。
「見ろ。我々の前に敵はいない。
西欧一、二の強国でさえ、このざまだ。
後一押しで、崩れるぞ」
王は立ちあがると、第二波の進撃を指示した。
それに応じ、王の前面に展開していた歩兵部隊が喚声と共に、進撃を開始した。
敵陣前面から沸き起こった喚声にブルゴーニュ大公は立ちあがった。
巻き起こる砂埃。
敵本陣正面の兵が動いている。
「今だ。合図を」
大公はそう言うと、自分の馬にまたがり、戦場に飛び出して行き、それと同時に一発の花火が打ち上げられた。
「何だ?」
「何の合図だ?」
戦乱の中、打ち上げられた花火に気付いた者はその意味を知りたがったが、戦闘の最中にそんな余裕はなかった。
騎馬に乗り飛び出した大公は待機していた騎士団と共に、左翼の戦闘をギリギリの距離で迂回しながら、騎馬隊の側面を衝こうと接近し始める。
その華やかな一団に敵の騎馬隊も気付き、敵の注意は大公の一団に集中し始める。
「あれは敵の名のある者に違いない」
大公達は敵の注意を一身に集める事に成功した。
一方、敵の騎馬隊の周囲で被害を押さえながら戦っていた大公の騎士団は、その最中に戦闘を止め離脱した。
その数、百騎ほど。
戦闘を離脱して、目指す先は敵の王。
「行くぞ!狙うは敵の王の首」
「おう!」
敵の王を目指す騎士団は向かって来る新たな歩兵を迂回しながら進んだ。
味方が崩れる前に、敵の王の首を上げなければならない。
そのためには、無用な戦いを避けながらも、一刻でも早く敵の本陣にたどり着く必要がある。
馬を駆る手に力がこもる。
すでに戦い続けており、疲労もたまっているであろうに、乗り手の気合が乗り移ったかのように、騎士たちを乗せた馬たちにも力が甦り、ぐんぐんと敵本陣が近づいて来る。
王の周りを固める東方の軍の者も、近づく騎馬に気付いてはいたが、それが敵だと気付いた時にはかなり接近されていた。
先頭を駆ける大公の騎士たちにも敵の王の姿がはっきりと確認できた。
多くの警護の兵に取り囲まれた台座の上には絢爛豪奢な絨毯が敷かれ、その上に金銀細工がちりばめられた椅子。そこに腰かける煌びやかな衣装をまとった男。その上には日よけの大きな傘が傾けられていた。
こいつを倒せば終わる。
大公の騎士たちはみなそう思った。
近づく一団が敵だと気づいた王を取り囲んでいた親衛隊の中の騎馬隊が迎撃に出て来た。
敵の騎馬隊の数はほぼ同数だが、敵は王を警護する精鋭である。
普通なら、相打ちでも上出来なところ。
しかし、騎士団は気分が乗っていた。
大公が言った策は勝利を目の前にしている。
すなわち、神のご加護は自分たちにある。
人はその精神力次第で、実力以上の事が行える。
騎士団は次々に敵の親衛隊を打ち破って行った。




