イレール vs ラース
風が教会の中に吹き込む。フランツがその風の勢いに目を閉じ、上半身を教会の門にあてがい、体重をもって扉を開けようとしている。教会の中の大公たちも腕で顔をかばいながら、体を前かがみにして風に対抗しようとしている。
イレールだけがその風の中、正面を見据えて立っていた。
広がって行く視界のその先。
見渡す限りがれきだけの荒れ地。そこには元々あったはずの街並みを形作っていた建物はすっかり消え失せていた。代わりに、その正面にはラースが不敵な笑みを浮かべながら、立っていた。
「やあ、そんな邪教の建物の中に隠れているとは、すっかり裏切り者に成り下がっていたんだな。
これで、お前を葬るのに何の躊躇もいらなくなったよ。
いや、元々殺す気ではいたんだがね」
そう言うと、ラースの姿が消えた。
フランツが振り返る。
ラースが殴り掛かろうとした右拳をイレールが左の手のひらで受け止めていた。
「私はお前を倒す!」
イレールはそう言って、ラースを教会の外に蹴り飛ばしたかと思うと、姿を消した。
教会の外で何かが激突する音がして、土ぼこりが上がっている。
フランツが教会を飛び出す。
レオン、大公たちも教会の外に飛び出した。
数十mほど先で、イレールがじっと立っている。
そのイレールの視線の先にはラースが体に付いたがれきの汚れを手で払っていた。
汚れを払い終えたラースが、にやりとした。
イレールが手刀で何かを切るような仕草をした。
一直線にがれきがはじけ飛ばされながら、イレールの衝撃波の軌跡を描き出していく。
ラースが勢いよく、右手を払うような仕草をした。
ラースからも一直線にがれきが弾き飛ばされた軌跡が伸びて行く。
二人のほぼ真ん中付近で、がれきが砕け散って空中高くに飛散した。
フランツたちが空中高く舞い上がるがれきに目を奪われた瞬間、二人はそのがれきが舞い上がっている地上付近で、向かい合っていた。
両方の手のひらを垂直に立て、両腕を前に突き出しているラース。
その前で、右腕の肘を折り、顔のほぼ正面で右手を斜めに構えたままのイレール。
「くっくっく、動けまい」
ラースの低い声が響く。
空中に舞い上がったがれきの破片が二人に降り注ぐ。
空中からラースの頭上に落下してくるがれきは、ラースに近づくにつれ破壊を繰り返し、ラースの頭上に達することなく、風に流され雲散霧消していく。
一方、イレールの頭上に落下してくるがれきは、その原型を変えることなく、イレールの肉体を襲い、その肌を切り裂き、突き破り、傷つけて行く。
その様子にレオンが足元に、何かの陣を描き始めた。
レオンが描き終えた魔法陣の中央に右手を置いた。
まばゆく輝きを放ち始めた魔法陣。
ラースがその光に気付き、視線をレオンに向けた。
「行っけぇ」
レオンが雄たけびを上げると、魔法陣からくねくねとした一つの細いものが、二人を目指して走り始めた。
「地割れ?」
フランツが目を見開く。
地割れはイレールとラースの間に達した。
その瞬間、イレールを捕えていたラースの力も地面と共に、断ち切られた。
ラースはレオンに気をとられ、イレールへの注意が散漫になっていた。
イレールの放った攻撃が、ラースの胸を切り裂き、真っ赤な血をほとばしらせた。
一瞬、苦痛に顔を歪めたラースに向け、イレールが蹴りを放った。
ラースは後ろに飛びのき、イレールの蹴りをかわすと、一瞬の内にイレールの背後に回り、固く両方の手のひらを結んで、思いっきり、イレールの後頭を殴りつけた。
少し前方の地面に勢いよく顔面からイレールが突っ込んだ。
「やはりイレールでは勝てないのか」
フランツがつぶやいた。




