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16年前の秘密

 16年前。闇に覆われた教会の中。

 布にくるまれた自分の孫を腕に抱きしめ、引き上げようとする大公を引き留めたのはジェラール司教だった。


 「なんだ司教」


 不服そうな顔つきで、大公が言った。


 「その子に異教の神の力がよみがえったら、抑える事はできません」

 「しつこい奴め。

 だから、何だと言うんだ」

 「一つ、私に考えが思い浮かびました」


 そのジェラール司教の言葉に大公の顔つきが真剣な表情になった。大公は体の向きを変え、ジェラール司教に向き直った。


 「それはどんなものだ?」

 「はい。

 その子の体を二つに分けるのです。

 陰と陽。おそらく、異教の神は陰に引き寄せられるはずです。

 陰だけが集められた、その子を掟通り処分すると言うのはいかがでしょうか?」

 「なるほど。

 それはいいかも知れんな」


 大公はジェラール司教にそう言って指示を出した。

 壁に取り付けられた何本かのろうそくの揺れる炎が、部屋の中を薄暗く照らしている。そんな中、ジェラール司教は魔法陣を床に描き始めた。

 陽を集める魔法陣。その横に陰を集める魔法陣。

 ジェラール司教が大公から受け取った赤子を陰を集める魔法陣の中心に寝かせる。

 突然、背中に冷たい感触を感じた赤子が、泣き声を上げた。

 暗い教会の一室に轟く、赤子の鳴き声。

 そんな中、ジェラール司教が何か呪文のような言葉を唱え、赤子が寝かされた魔法陣に手を添えた。

 魔法陣から、目もくらまんばかりの光があふれ出す。その光が隣の魔法陣に吸い込まれていく。陰の魔法陣が全ての陽を弾き飛ばし、隣の陽の魔法陣が全てを吸収していく。

 今まで誰もいなかった陽を集める魔法陣の中心に、赤子の姿が浮かび上がって行く。

 最初は陽炎のようだったその姿がはっきりとした姿になって行く。

 やがて、魔法陣から発していた光が収まると、二つの魔法陣の中心に二人の赤子が横たわっていた。

 陰の魔法陣には泣き叫ぶ赤子が。陽の魔法陣にはすこやかに眠る赤子が。



 「では。

 セリア様には本当に力は無いのですか?」


 大公は頷いて見せた。


 「しかしだ。

 力はなくとも、セリアはその子に立ち向かい、その子を追い返した。

 その子には愛とか勇気とか言ったものが欠落しているはず。

 セリアの感情が加われば、もしかするのかも知れない」


 大公はそう言った後、天を仰いだ。


 「ジェラール司教なら、二人を元の一人に戻せるやも知れんが、誰が今、それをできると言うんだ」

 「ジェラール司教の息子、レオンはできないでしょうか?」

 「レオン?」


 二人は戦列を離脱した。フランツはレオンを連れ出し、イレールと共に教会に向かうために。大公は屋敷にセリアを連れだし教会に向かうために。

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