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大公の下へ

 屍の上に築かれたイレールとラースの闘技場。そう形容するにふさわしいほどの空間。その場に足を踏み入れようとする兵たちはいない。

 目の前に広がる赤い血と真っ二つに切断された兵たちの屍が埋め尽くした空間を目の前にして、恐怖とこれから起こる事への興味から、敵、味方関係なく全ての兵たちが動きを止めている。

 みなの視線が集まる中、イレールの姿が突然消えた。

 ラースの胴体が斜めに切り裂かれ、血しぶきを上げた。

 二人を見つめていたみなの目が、驚きで見開いた。

 ラースの背後にイレールが姿を現し、後頭部に回し蹴りをくらわすと、地面を埋め尽くした兵たちの屍を弾き飛ばしながら、ラースが吹き飛んでいく。


 「勝てる」


 イレールはそう言うと、ラースの身体を追って、姿を消した。

 ラースが身動き一つせず、屍に埋もれながら、横たわっている。

 はるか空中から、イレールが手とうで空を切る。

 屍たちの肉を飛び散らせながら、イレールの技が一直線に横たわるラースに向かっていく。

 空中ではイレールが、ラースが切断されるタイミングで、蹴りをラースの頭部に放とうとしている。

 高速でイレールがラースに向かっていく。

 蹴りが命中する。

 二人の戦いに目をやっていた兵たちがそう思った瞬間、兵たちは強風で後方に吹き飛ばされた。

 イレールも空中高くに舞い上げられている。


 「つまらんなぁ。

 その程度か」


 そう言ったラースの額には第3の目が開いていた。

 ラースの姿が消えた次の瞬間、激しく屍が飛び散った。

 その中心には地上に叩きつけられたイレールが横たわっていた。

 口から血をたらし、よろよろと立ち上がるイレール。

 イレールの顔から、怒りは鳴りを潜め、恐怖が浮かび上がっている。

 ラースがイレールの背後に姿を現し、イレールの長い髪を鷲掴みににして、引っ張る。

 イレールが顔を歪めながら、自らの髪を手とうで切ると、ラースに向き直った。

 イレールが再び手とうを切るような仕草をする。

 ラースの足元の屍たちが飛び散ったが、ラースには何の変化もなく、にやっと微笑んだ。


 「そんなもの効かぬなぁ」


 そう言って、ラースが手をイレールに向かってかざそうとした時、その上空から弓矢が降り注いだ。


 「イレール」


 フランツが叫ぶ。その周囲には弓を手にしたフランツの騎士たちがいた。

 ラースの視線がフランツたちに向かった。


 「死ね。

 虫けらども」


 そう言った瞬間、フランツたちを強力な波動が襲った。

 空中にあった矢は次々に霧散していき、生ける者たちの肉は激しく震え、削げ落ちていく。フランツを取り囲む兵馬が地上に出来上がっていた屍たちと、まじりあっていった。

 ただ、フランツだけは瞬間に移動したイレールの力によって、かろうじて守られている。

 

 「すまない。

 お前たち」


 フランツはそう言い残して、馬を駆けた。

 自分の前に傷ついたイレールを乗せて駆ける。そんなフランツが目指すのは大公の下だった。

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