魔法陣の布陣
西侵に動き始めた東方のバンガロール王国に、進路上の小国はことごとく恭順を示した。敵無き道を進む東方軍は瞬く間に接近してきたばかりでなく、恭順してきた国々の兵力を併呑することで、100年前と同様その兵力を増大し続けている。
東方軍の先鋒は異空間から解放された100年前の部隊で、すでに隣国の首都を取り囲むように包囲していた。
この国に攻めて来るのももはや時間の問題であり、国王は全軍に出撃準備の命令を下している。王の命令に応じ、ブルゴーニュ公国も全軍での出撃準備をしていた。
マウエス王は先鋒のはるか後方を進軍していた。100年前の王ハルラールはマウエスと共にそれぞれの籠に乗って進んでいるが、あくまでもマウエスの好意による客将的立場である。進軍を開始した当初、その先鋒の中心はマウエス直下の兵だったが、ここに来てその先鋒を担っているのはハルラールの兵達である。
ハルラールの兵達の動きは逐一戦場から、ハルラールの下にも伝えられていた。そして、今、ハルラールは自軍が配置された地図を見ながら、首をひねっている。
やがて、ハルラールはかごをマウエスと並べるよう担ぎ手に命令した。
ハルラールを乗せた籠が警護の者たちの輪を破って、マウエスの下を目指して動き始めた。マウエスはその報告を聞くと、自分の警護の一辺を解いた。
警護の者がいなくなった隙間から、ハルラールがやって来て、横に並んぶ。マウエスはそのハルラールにちらりと目をやっただけで、すぐに正面を向いてハルラールを無視した。
「マウエス王。
聞きたい事がある」
「ほぅ。どのような?」
マウエスは一瞬ハルラールに視線を向けたが、すぐに正面に視線を戻したまま、そう言った。
「我が軍の配置だ」
「それが何か?」
「何故、5軍に分けた?」
「何故?
包囲のためですよ」
「5軍でなくともよいだろう。
しかも、この配置は」
ハルラールがそこまで言った時、マウエスが一瞬にやりとした。しかし、すぐに真面目な顔をして、ハルラールを見た。
「何か?」
「これでは魔法陣」
「なんと!」
マウエスは驚いたような声を出し、ハルラールが手にしている地図に手を伸ばした。
「これはいけませぬな。敵に踊らされたのやもしれませぬな。
ハルラール王、彼らは今の配置にも、あなたの命令で付いております」
「しかし、配置する地名を助言され、彼らに命じたに過ぎない。
場所を決めたのはマウエス王、あなたの部下ではないか」
「いやいや。そのとおり。私が申し上げたかったのは彼らはあなたの命にしか従わないという事ですよ。
今から、彼らに移動を命じに向かってもらえませんでしょうか。
これは敵のわなにはめられたのやも知れず、一刻を争うことになります。
私の部下たちに警護させますので、よろしくお願いします」
マウエス王の要請にハルラールは頷いてみせた。
立ちさるハルラールの後姿を見つめながら、マウエス王の顔がほころんだ。
「あなたにも役だってもらいますよ。
最高にね」
マウエス王のその言葉はハルラールには聞こえていなかった。




