戦乱の予感
街中に緊張感が満ちていた。
大公が反大公派のカルサティ家を襲った事で、表向きは反目などないように取り繕っていた二つの勢力の反目が顕在化したのである。
街のあちこちで、足早に走り抜ける騎士たちの姿が見られるようになった。庶民は身を守ることに敏感である。戦いが起きる予感を感じ取っている。みな買いだめに走り、嵐が過ぎ去るのを家の中でやり過ごそうと、あわただしく街を行きかっている。
騎士たちが向かう先の一つは大公の下。
イレールの反撃で多くの騎士たちを失った事い、自身の軍事的な力を大きく失ってしまった大公だったが、それでも人は集まった。
セリアの力を信じる者。
ここで恩を売っておこうと言う者。
大公に誠心誠意、忠誠を誓う者。
思いはそれぞれだったが、大公の屋敷の中に大きな勢力が結集された。
当然、もう一方の極であるカルサティ家にも、大公に対抗しようと多くの者たちが集まった。
テオドールはそんな騒然とする街の中を馬車で進んでいる。テオドールは表向き大公派だったが、まだ大公の下にかけつけていなかった。
揺れる馬車の中で、テオドールは深刻な顔で座っていて、その向かいにはテオドールが使っていた情報屋が座っている。
二人はずっと黙り込んだまま馬車の中で揺られていたが、カルサティ家の屋敷の前で、馬車は止まった。
いつもなら、屋敷の中に入っているところだが、門が固く閉じられている。
テオドールは馬車の窓から、その光景を見つめ、思案し始めた。
「うーん。中は反大公派の貴族とその騎士たちがいるだろうし。
さて、どうしたものか」
「入らないのですか?」
「私は大公派だ。表向きは。
反大公派が占めるカルサティ家に入る事はできんだろう。
門が開いていれば、何とかなったはずだが」
「そうでしたか。
大公の勢力をここまで、殺いだのはドヌーヴ公のご活躍によるものですのに」
テオドールが、その意味深な発言をした情報屋を睨みつける。
「おっと、これは失礼。
で、どうされますか?」
「地道に大公の所へ向かうか。
あそこにこの軽装で行く訳にもいかず、それなりの武装をしなければならず、戻ってこれなくなるかもしれんから、避けていたんだが」
そう言って、しばらく考え込んだ後、フランツは行き先を大公の屋敷に変更した。




