攻め込む大公の騎士団
多くの馬が駆けている馬蹄の音。
男たちの喊声の中に、悲鳴か怒号のような声も混じっている。
部屋の南面に設けられ、明るい陽射しが差し込んでいる窓を通して、不穏な空気が部屋の雰囲気を変えた。
「何だ?」
フランツはそう言うと、席を立って窓に近づく。
窓の向こうに微かな土煙が見える。
「騎兵が動いているのか?」
見ている間に、その土煙はどんどん近付いて来ている。
「これは?
まさか。」
一瞬、どこかの貴族が自分の屋敷を襲撃しようとしている。そう考えはしたが、すぐに否定した。フランツは深刻な顔で、窓の外を見ている。
「何かあったのですか?」
イレールも席を立ち、フランツの背後に回り、その体の陰に隠れながら、窓の外の様子をうかがう。その顔は不安でいっぱいと言う感じである。
「いかん。
イレール。自分の部屋に身を潜めていろ」
そう言い残して、フランツは部屋を飛び出して行くと同時に、敷地の中には見知らぬ騎士団が入りこんできた。
「あれは?」
フランツの言いつけを守らず、イレールはまだその場で外を見ていた。
「あれは大公の旗です。
大公の騎士たちが攻め込んできたんでしょう。
さ、早く」
メイドの一人がそう言いながら、イレールの腕を引っ張る。
「大公?」
イレールはメイドに引っ張られながら、そう言った。
イレールが二階の自分の部屋に入った時には屋敷の庭では激しい戦闘が行われていた。
「怖い。怖い」
イレールは部屋に入ると、ベッドの上で震えていた。
「あ、私の花は?」
イレールの頭の中に突然、自分が育てている花の事が思い浮かび、窓際に駆け寄り、窓の下を見た。
庭の広い芝生は馬に荒らされ、至る所で無残な土をさらしている。
植栽は大きな被害は見られなかったが、花園のいくつかは無残にも花が馬に踏まれ押し潰されていた。




