アクバルへの王の手紙
同じ頃、アクバルはジャコブを殺害したため、教会から遠く離れた東方出身者が多く住む街で身を潜めていた。
外の喧騒とは隔離されたうす暗い部屋の中を、落ちつかぬ様子でぶつぶつ言いながら、歩きまわっているアクバルのその手には王よりの手紙が握られていた。
その手紙に書かれているであろう王の指令を知りたくて、アクバルの横に男が立っている。
「アクバル、陛下は何と言っている?」
アクバルが一人ぶつぶつ言ってばかりで、王の指示を語ろうとしない事にしびれを切らして、男が言った。
その言葉にアクバルは答えず、手にしていた手紙を差し出した。男はそれを受け取るとその手紙を読み始めた。
「アクバル。
その方の力を認めよう。
そして、バラモン階級へお前たちを戻そうと思ってはみたが、アスラが敵方についているようでは、それはお預けである。
余に力を認めさせたければ、アスラの力を我が方に取り戻せ。
それが叶わぬなら、アスラを葬れ。
敗走してきた100年前の軍を率いていた王の話ではアスラを召還したお前の祖先シリルが、生きている可能性があるらしい。
そいつの力を借りるのもいいだろう。
マウエス」
読み終えて男はアクバルを見た。
あのとんでもない力を葬る事などできる訳が無い。男はそう思っている。
「で、どうするんだ?」
「シリルの行方は探ってくれないか?」
男もそれ以外には無いとは思ってはいたが、それも簡単な話ではない。
複雑な表情で、アクバルを見ながら、話した。
「分かっているのは名前だけだろう。
やってはみるが、そう簡単ではないな。
で、アスラの方は?」
「アスラを異空間に封印したユベールは自分の力では永久にアスラを封印し続ける事は不可能だと知っていた。
そして、アスラは赤子を使って、こちらの世界に戻ってくると予言していた。
アスラはあの少女の身体を使って、すでにこちらの世界に戻って来た。
あの子は元々は生まれた時に殺害されるはずだった。
しかし、殺されずに今まで生きてきた。
少女の正体は大公の孫娘だそうだが、それだけに殺されずにいたと言う事か。
そして、大公の下で育てられている内にこの国の者に従うようになったのか?」
アクバルが独り言のように、知っている少女の事を呟く。
「で?」
「シリルを探して意見を聞きたいところだが、あてにしていては先に進まない」
「で、お前にできるのか?」
「分からん。
我々の下に戻らせることができれば一番だが、それができなければもう一度異空間に封印するしかないだろう」
「大公の屋敷ごとか?」
「そうだな。
だが、まずはあの少女と接触できないものだろうか?」
「あの子の家はこの国の貴族の中でも名門中の名門だ。
我々のようなものでは到底近づけない」
男はあっさりとそう言った。しかし、すぐに何か思いついたような表情をした。
「まずは、反大公派の貴族たちに取り入ってみるのはどうだろうか?
そこから、何か得られないだろうか?」
「反大公派?」
「ああ、そうだ。反大公派と言えば、カルサティ家のフランツだろう。
奴は絶対ブルレック家を許さないはずだ。」
「そうなのか?」
「ああ。16年ほど前の事だ」
そう言うと、男はアクバルにこの国で起きた16年ほど前の事を話し始めた。




