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セリア出生時の秘密とは?

 空に輝く三日月だけがほのかに世界を照らし出す夜の闇の中、小さなランプを揺らしながら、馬車が走っていた。

 人気もない道を走る馬車のはるか先に弱々しいオレンジ色の光が現れ、馬車がさらに進んでいくと、オレンジ色の光は次第に大きくなって、その全容を現した。

 光の元はフランツの屋敷で、屋敷の門はこんな時間だというのに開いていた。

 屋敷の敷地の中に馬車は滑り込み、昼間なら鮮やかな色を放つであろう花々の横を通り過ぎ、屋敷の玄関の前に立つ二人のメイドの前で停車した。

 馬車のドアがゆっくりと開き、屋敷の明かりが馬車から降りてくる人物を照らし出す。

 馬車から降りてきた人物はドヌーヴ家のテオドールである。

 金色に輝く短髪、切れ長の目の中に輝く青い大きな瞳。容姿の全てがこの国の上層の者の品位を漂わせていた。


 「テオドール様、お待ちいたしておりました。

 フランツ様がお待ちです。

 こちらへ」


 出迎えたメイドがテオドールをフランツの下へ案内する。そのメイドは入ってすぐのところにある部屋のドアをノックした。


 「どうぞ」

 「失礼します」


 メイドがそう言って、ドアを開けた部屋の中では、ソファにフランツが一人で座っていた。

 テオドールはメイドが開けているドアを通って中に入って行くと、フランツは一度立ち上がり、テオドールを自分の向かいに座るよう促した。


 「フランツ様、ご依頼の件、調べてきましたが、何故このような事をお調べなのですか?」

 「そうですね。今後もご協力いただけるなら」

 「フランツ様への協力は惜しみませんよ」

 「それが大公に背くとしても?」


 フランツがにやりとしながら言った。

 

 「大公にですか?

 これはまた、率直なご発言で」


 テオドールは苦笑いをしている。

 この国は表向きには平穏を保っているが、裏では反大公派と大公派に分かれていた。

 フランツは反大公派、テオドールは内実はフランツと手を組んではいたが、表向きは大公派に属していた。


 「ははは。

 で、いかがでしたか?」

 「はい。

 当時の事を聞きましたところ、セリア様は間違いなく、あの日にお生まれですが、フランツ様が言われたような双子と言う事はなかったようです」

 「それは間違いないのですか?」

 「はい。ご出産に立ち会われた方に直接確認しておりますので」


 それは期待していた答えではなかった。

 フランツは腕を組んで、目を閉じた。


 他人があれほどまでに似るのだろうか?

 イレールが生まれた正確な日は分からないが、ほぼ同じ頃に生まれて。

 解が分からない。

 閉じた暗い空間の中で、フランツは思考を巡らせていた。


 「ただ」


 テオドールはフランツの反応を観察しながら、言葉を付け加えた。


 「ただ?」


 テオドールが続けた言葉にフランツは目を開け、食いついた。

 次の言葉は何か?

 フランツは真剣なまなざしをテオドールに向けて、それを待っている。


 「何かを隠している気配があります。

 私が話を聞いた者は、私がセリア様の出産時の話をうかがいたいと切り出したところ、顔色を変え、立ち去ろうとしました。しかし、セリア様は双子だったのではと告げた途端、ホッとした表情で、明るく笑い出し、あっさりと否定しました。

 これは何か別の事を隠しているとしか」

 「隠さなければならない事。

 鐘の音か?」

 「まさか。

 アスラを宿した生まれ変わりだとすれば、あのような明るく優しいお方には育っていないでしょう。

 それに、あの日、アスラの生まれ変わりは処分され、当時のジェラール司教の手によって、いずこの地かに葬られております」


 フランツの頭の中は時の流れを遡り始めた。

 テオドールが言うように、アスラの力を宿した赤子はジェラール司教の手によって、葬られた。そのジェラール司教はその直後、殺されている。そこに何かが。


 「たしか、そのジェラール司教は数日後に亡くなって発見されている。

 そこに何か秘密が。

 ジェラール司教には確か息子がいたはずだが。名をレオンと言ったか。

 何か知っていないでしょうか」

 「分かりました。

 そちらの線も当たってみましょう。

 ところで、このような事をお調べになろうと思われたのはどうしてですか?」

 「そうですね。

 あなたには言っておきましょうか。

 最近、一人の少女を貰い受けましてね」

 「ほう。少女ですか?」

 「ええ」


 フランツはそう言うと席を立ち、再び戻ってきた時には一人の少女を連れていた。

 金色に輝く長い髪と可憐なドレスが相まって、その少女は気品を放っていた。


 「これがその少女ですか?」


 テオドールが驚きの表情で立ち上がり、フランツを見た。

 その言葉にフランツが黙ってうなずく。

 

 「こう言うことですか」


 二人のやり取りに意味が分からず、イレールは立ったままである。


 「あの?」


 どうすればいいのか分からず、イレールが戸惑いの表情をフランツに向ける。


 「ああ。すまなかった。

 ちょっと、君の可憐な姿をこの友人に自慢したかっただけだ。

 もう戻っていいよ」

 「失礼します」


 イレールは意味が分からないと言う表情を浮かべながら、去っていった。


 「声もそっくりですよ。

 双子としか考えられませんね。

 これはもっと調べてみる必要がありますね。

 隠しているものを」


 テオドールはそう言うと、席を立った。

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