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封印を解け!

 この国の匂いをあえてあげようとしても、みなが首をかしげるほど、特徴的なにおいは街に満ちてはいない。もちろん、食事を提供する店や、過程の食事時には色々なにおいが立ち込めるし、通りを入った路地には人々が用を足した独特の匂いが立ち込めていたりはするが。


 今アクバルが歩む通りは全く違う匂いに満たされていた。

 息を止めたくなるような薬草のようなにおい、ツンと来るような香辛料と思われる匂い。

 そんな匂いを含んだ空気に、聞きなれぬ言葉の振動が波となって伝わってくる。

 視覚に映る人々の肌の色、顔つきもこの国の者ではなく、明らかに東方の人々であって、表情も暗く、身なりも薄汚れていて、みすぼらしい。

 そんな通りを人々の隙間を縫うように、アクバルが歩いている。アクバルは街の人々の生活を知るという事を目的に、時々街に出ていた。この街もそんな場所の一つだった。

 アクバルの服装はこぎれいだったため、すれ違う人々の何人かはアクバルに視線を向けていたが、そんな事は意に介さず、人ごみをぬって、真っ直ぐに進んでいく。

 視察のはずだが、周りに気をとめる事も無く真っ直ぐに。

 しばらくすると、一人の少女がアクバルに近寄ってきた。


 「おじさん。お花を買ってくれませんか?」


 少女と言うより大人に近い花売りがアクバルに声をかけながら、アクバルの進路をふさぐように立ち止まった。


 「いや」


 アクバルは手を横に振る仕草と言葉で断る。


 「そんな事をおっしゃらずに、買ってください。

 でないと、私ご飯を食べさせてもらえないんです」


 花売りの女性はアクバルの前に花を差し出し、言った。

 じっと、アクバルを見つめる。絶対に引かないぞと言うオーラを出している。


 「分かった。では、いただこう」


 アクバルはそう言うと、懐からお金を取り出した。


 「ありがとうございます」


 花売りは頭を下げ、にこやかな表情で、花をアクバルに渡した。

 アクバルが花売りにお金を渡すと、花売りは立ち去って行った。

 アクバルはその後姿を見送ると、再び歩き始める。

 その通りを進むアクバルに、視線とこの街の臭いがからみつく。アクバルはそれを嫌うかのように、わき目も振らず真っ直ぐ進む。

 アクバルは結局、この街で花を買っただけで、自分の教会に戻って行った。



 「アクバル、街はどうだった?」


 戻ってきたアクバルとすれ違った仲間がたずねた。


 「はい。今日は東方の国から流れてきたと思われる者たちが多く住む場所を見てきましたが、生活に困窮している感じを受けました」


 アクバルは自分は異国民と言うことから、上の者だけでなく、仲間、そして下の者にも丁寧な口の利き方をしていた。


 「まあ、彼らはこの国の下層に位置するからな」

 「はい。我が主に救いを求める気があればよいのですが」

 「彼らはこの国に来ても、君とは違い、異教を信じておるから、難しいだろうな。

 我らが主を信ずれば救われるであろうに」

 「はい。私も微力ながら、彼らを改宗させようとしているのですが、なかなかうまくは行きません」

 「まあ、そう簡単にはいかんわな」

 「はい。では」


 廊下で出会った仲間に、そう言うとアクバルは自分の部屋に向かって行った。

 アクバルは自分の部屋に入りドアを閉めると、手にしていた花束の中をまさぐった。

 アクバルの表情に変化があった。アクバルが花束の中から引き抜いた手には一枚の紙が握られていた。

 アクバルはその紙を開くと、読み始めた。


 「アクバル。


 お前の報告が正しいなら、異空間の封印を解け。

 それがお前の家を再興させる条件だ。

 お前の祖先に神を召還できる力を有ったと言うなら、お前も異空間に封印された者達を呼び戻してみせろ。

 お前の力を示せ。


 マウエス」


 「マウエス王より」


 そう呟いたアクバルの目には涙が滲んでいる。しばらく、王からの手紙をもらった余韻に浸っていたが、アクバルの思考は現実に戻った。


 「封印を解く?」


 アクバルは上を見上げた。アクバルは持っていた紙を破ると部屋を飛び出した。

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