3話
カシャンと金属のたてる硬質な音が聞こえて検査が終わったことを悟る。
「この娘は問題なく生娘です」
その言葉を遠くに聞きながら、目からは涙が止め処なく流れた。叫び続けていた喉は、それが無駄だと悟ったように声を出そうとはしない。体を押さえつけ動けなくしていた女性たちがその言葉を聞いて腕を放した。もう抵抗するような気力はどこにも残っていなかった。
こんなことを、たかが貴族の家に生まれたというだけで、親が分からない貧民だからしてもいいというのか。
こんな所業をされて当たり前だというのか。
そんな考えが何度も何度も駆け巡ったが、さまざまな暴力にさらされた身体が限界を訴えるようにゆっくりと意識を失った。
それからの3週間はあっという間だった。
初めはどうしてこんなことをと思うとなかなか素直に学べなかった。でも教育が始まって1週間の時にあの女がやって来て、私の決意は固まった。
それは別におかしな質問ではなかったと思う。冷静になるとどうしても気になることがあった。
『私はいったい、外の世界ではどういう扱いになっているのか』と
失踪か、行方不明だろうと思いながらも心配しているであろう孤児院の皆を思い浮かべるとたまらなかった。
「あぁ、適当な死体を手に入れてお前の服を着せて燃やしておきました。外ではあなたは死んだことにしてあります。ことが終われば平民の戸籍を用意してあげるつもりですよ。感謝なさい」
とっさに叫びたくなった自分の口を怒りのあまり震える手で塞ぐ。
初めに感じた理不尽な行いに対する怒りなんて今の比ではない。
人を勝手に殺しておいて、平民の戸籍を用意するから感謝しろというこの身勝手極まりない言葉に。
この世から自分の都合のためだけに私の存在を消したとさも煩わしそうにいうこの生き物を許せようはずもない。
この時自分の心は決まった。
どんな形でも構わない。
絶対に後悔させてやると。自分を侮り、自分の周りに生きる人まで軽んじ、貧民という言葉で全てを否定するこの人に。
そして教育を施していた教師たちをも感嘆させるほど、どこからどうみても生まれながらの貴族のように私はなった。