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1話

小さな納屋で生れたらしい自分は、母の顔も知らず、父の顔も知らず、身内もいない。

迷惑そうな顔を隠そうともしない男性にカゴに入れられて警察につれてこられた私が知っていることは、生きていたのが不思議なほど寒い真冬の納屋の中で、死を願うように生み捨てられ、身体すら拭われずどろどろの姿のまま、捨てられたということだけ。




こんなスタート地点が人生の始まりでも、上手く星がめぐり合うと生きていけるものだ。

例えば警察の人が、優しい人で手続きもほって病院に駆け込んでくれたりだとか。

(おかげで一命を取り留めた)

治療をしてくれたお医者さんが優しい人で孤児院に入れてくれたりだとか。

(いいところを探してくれたから理不尽な目にはあわなかった)

厳しく躾けてくれたシスターのおかげで礼儀作法も一般的な教養も身につけることができたりだとか。

(孤児としてはありえないことだとあとで知った)



それは本当に偶然の産物でしかなかった。

きっと親にすら死ぬことを期待された私は、あと一週間で16歳を迎えようとしていた。




そしてまた、私は偶然という名の運命の歯車に無理やりはめ込まれることとなる。








あと一週間と迫った誕生日=施設を出て自立した生活を始める日のために、生活の拠点にするために決めたお世辞にもきれいとはいえない貸し部屋の掃除に訪れていた。

孤児院のあった貧民街では働き口自体がなく、結局孤児院から離れた主に平民の住む街での就職が決まっている。その仕事場から程近い場所にある貸し部屋が、ちょうどのタイミングで空いたためそれほど苦労せず入居は決まった。




汚くても小さくてもこれから自分が生活するんだと思えば嬉しくて、掃除にも気合が入った。気付けばそろそろ出ないと施設まで帰り着くのは夜中になるような時間で、あわてて乗合馬車の乗り場へ急いだ。




「もう少し早く気付きなさいよ、ばか」

使ってはいけない品のない言葉で自分を叱りながら、必死に足を動かす。




ふと横道が目に入る。

そういえばここを抜ければ近道だったんじゃないかしら、思うなり方向転換をして細い路地に入る。昼間は何度か入ったことのある道だったが、こんなに暗くなって通るのはもちろん初めてだ。




なんだかよくない雰囲気だわ。失敗したかもしれない。




こんな時に限って嫌な予感が当たる。

「よぉ姉ちゃん、ちょっと俺の酒に付き合えよぉ」

いきなり暗闇から伸びてきた手に腕を捕まれ、前に男が回りこむ。


いったいいつの時代の文句なのかと言いたくなる様なステレオタイプな言葉に下卑た笑みで酒臭い息を吐きながら、顔を近づけてくる男はかなり酔っているらしく、腕を掴む手にはたいした力はこもっていない。これならいけるだろうとあたりをつけて、さっさと通ることにする。

「すみません、急いでますので」

男の腕をはずさせ、通り抜けようとした時、意識は完全に男に向かっていた。その後からさらに忍び寄る影があったことなど、気付けるはずもない。




背後から伸びてきた腕に羽交い絞めにされたと思ったとたん他の人間の手で口に猿轡をかまされ、目隠しをしながら、さらに僅かな明かりさえ奪うように袋を被せると腕ごと袋をきつく縛られる。せめてもの抵抗に足を動かしたところで鳩尾にこぶしがめり込んだ。



そこから先は意識が朦朧としていて覚えていない。

何人かの男の声を気を失う寸前に聞いた気もするが、それすら定かではない。











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