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17話

少女は闇の中にいた。








「もう嫌だ」

だれもいない空間で一人つぶやく。




誰もいないと認識しながらそう認識することで、初めて回りを見回し、やはり周囲に誰もいないことを確認する。


そして誰もいないどころか、闇の中に自分ひとり立っていることに気付く。




闇の中なのに、なんで自分は見えるのかなとどうでもいいことを考えると、ずきりと頭に鈍痛が響く。




その痛みに全てを思い出した。

さらわれたこと。

身代わりとして結婚したこと。

彼に惹かれてしまったこと。

シェラザードが帰ってきて入れ替わりメイドになったこと。

そして彼にばれてしまったこと。




娼婦として売られたこと。

意識を失った瞬間のこと。



ここまで思い出して、ここが自分の意識の中なのだと気付く。



「きっと起きたら娼館ね」

ポツリとつぶやく声に涙が混じる。



「なんでこうなったのかな」




だれも聞きとがめないことが分かっているから、今までいえなかったことを遠慮なくこぼす。

言葉と一緒にずっとこらえていた涙もこぼれた。



「もう嫌だ。疲れたよ」

もう一度嫌だとこぼせばじわじわと足が見えなくなった。



「こんな目にあう理由なんて私にはないもの」

そう零せば今度は腰までゆっくりと闇に飲まれる。でも全く恐怖を覚えなかった。



「もう眠りに尽きたい」


「それくらい許されてもいいでしょう?」


「疲れたの」


そう彼女がつぶやくと同時に足元からじわじわと闇に侵食される。最後に頭まで闇に飲み込まれたとき、安らかな闇の中、自分の意識を深く深く沈めた。








ふと感じるぬくもりに気付く。


あれからどれだけ経ったのか、時間の感覚が全くない。


一瞬なのか、1日なのか、はたまた1年くらいたったのか。




自分は死んだのだろうかとゆったりとたゆたう意識の中で考える。




それにしては手だけが妙にぬくいなと思う。死んでぬくもりを感じるなんておかしな話は聞いたことがないなと思っていると、さらに頬に触れるぬくもりに気付く。



気付けば自分を包む闇が薄くなっていた。



「ダメ!!ここから出たくないの!!」

慌てて口にした言葉に少し闇が濃くなったのに、それを引き止めるように小さな声が耳に届く。



シェーラと、それは自分の名前。



「シェーラ」

意識するともっと大きくはっきりと聞こえる。



「シェーラ、頼むから起きてくれ」



この声・・・まさか、ゲイル様?



「シェーラ、頼む」


この優しい声はやっぱりゲイル様・・・なにをそんなに私に頼んでいるの?



「シェーラ、目覚めてくれ」


ゲイル様の頼みでもそれはいや。



ここから目覚めて待っているのは娼婦としての仕事だけだ。



「シェーラ」

そんな声を出さないで



「頼む」



切実な声に彼の面影が浮かぶ。

もう一度彼にあえたらいいのに、そんな不可能な愚かな願いを抱いた瞬間闇は晴れた。




次に目を開けると真っ白な光に包まれた。









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