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15話


「お前は孤児院からさらわれたシェーラで間違いないか?」

「は?」

「違うのか?」

「いえ、・・・そうですけど」

肯定はしたものの、いきなりの話の展開についていけない。自分の正体から質問されるものとばかり思っていたのだが・・・。




「そうか。今から話すことに間違いがあれば言ってくれ」

そう言って彼が話し出したことは、驚きの連続だった。


「まず、俺がどうして結婚するかは話したな?」

「はい。同性愛者という不名誉な噂を払拭する為ですよね」

「・・・あぁ、そうだ。だが、結婚式の正式な日取りを決めるなり、相手から体調不良を訴えられての延期が告げられた。しかし、うちに入ってきた情報はシェラザードが男と駆け落ちしたというものだった」



「話は少し変わるが、もともと俺は婚約していた女とも折をみて婚約を解消するつもりだった。俺は好きでもない女と結婚するつもりもないし、相手も自分で結婚相手を探したいという女で利害が一致しただけの関係だったんだ」

「そんな方がいらっしゃるんですか?」

貴族に?という驚きでいっぱいなのだが、ゲイルはあっさり肯定した。

「あぁ、だが俺の噂と同時期に意中の相手を見つけたらしくて、婚約を破棄する理由も整っているし、ちょうどいいからと解消された。両親は恋愛結婚で身分差もあっての結婚をした二人だから、俺の考えにも理解を示してくれてた。けどそんな俺の考えに賛成も否も唱えていなかった祖母が今回のことで心配して婚約を決めた。もともと社交界からはすっかり身を引いてたから、シェラザードのことも、あの家の評判も知らなかったんだ」

もう困惑以外の表情が浮かべられそうにない。

「祖母の顔を潰すわけにも行かず、困り果てて受けた結婚話だったが行方不明で消息がつかめないというからある意味安心していたんだ。そのうち向こうから断ってくるだろうと。しかし、1ヶ月後いきなり延期がとかれ結婚話は唐突に進み、シェーラザードとの結婚の日取りがまた決まった。調べてみたが、いまだにシェラザードを探している動きがあるというのに、結婚できるはずがないだろう?おかしいと思いながらも結婚の当日が来た」

「じゃあわかっているのに結婚したんですか?」

「あぁ、まぁおかしいことはわかっていたのに結婚した」

「もうひとつシェーラに言ってない理由がこの結婚にはあったんだ。でもまだそれは言えない」

不満げな表情を浮かべるシェーラに苦笑で答えたゲイルはそのまま話を続ける。

「結局結婚した後も調べ続けて、ようやく殺されたことになっているシェーラを見つけた」



「孤児院の院長がこれは絶対にお前の死体じゃないって、燃え残ったむごい体をさんざん調べて言いはったらしい。町の中で今だに聞いて回ってるって話だ。院長が配っているという似顔絵をみたが、シェラザードの姿絵とは確かにかなり似ていた。話も聞いてシェーラだと思った」

思わず涙がこぼれた。

「院長様が?」

「あぁ、無事な姿を見せて安心させないとな」

自分は死んだことになっていると聞かされていた。まさか、院長様が探してくれているなんて思いもしなかった。

ぼろぼろと涙が止まらない私をそっと抱き寄せてくれる。




私がようやく落ち着いて涙が止まったところで彼はまた話し始めた。

「シェーラはさらわれてきて、シェラザードの身代わりを命じられた。でもシェラザードが戻ってきたから、里帰りの時に入れ変わったであってるか?」

「・・・はい」

「ただひとつわからないのは、どうして戻ってきた?シェーラは向こうの屋敷に囚われているのかと思っていた。消息がつかめないから心配した」

「私は、メイドとして戻ってきたんです」

「ここに?シェラザードと一緒にいるほうが俺にばれる可能性が高くないか?」

「その・・・」

「ん?」

疑問は最もだが、その理由を話すためには自分が初めてで、シェラザードは初めてではないからといった話をしなければいけないことになる。あまりに赤裸々な話しに、話すことを躊躇していると少し悲しそうに表情を曇らせた。

「俺には言えないか?」

「違います!その、シェラザードはもう、その・・・初めてではないので、それがバレると恥になるからと・・・」

彼の悲しそうな表情に慌てて言ったが、途中から耳まで真っ赤になっている気がする。顔が熱くて仕方がない。

「初めてというと・・・男女のということか?」

「・・・はい」

消え入りそうな声で答えると彼はシェーラを抱き寄せ、苦い声で続けた。

「シェーラが初めてだから身代わりに男に抱かれてこいと指示をしたのか」

「・・・はい」

恥ずかしさのあまり顔を見上げることもできず、ずっと彼に抱きしめられたままの体勢でいたのだが、以前枕事件の時に感じた怒りの空気よりもっともっと黒い空気を感じて、恐る恐る彼を見上げる。

「ゲイル様?」

抱きしめられままのせいで彼の表情をうかがい知ることができないが、自分が名前を呼ぶと抱きしめる腕に力がこもる。

「・・・いや、大丈夫だ」

何が?と思ったがそれは口にできなかった。黒い気配は弱まったもののとても疑問を口にできるような、空気ではなかった。




抱きしめられた体勢をようやく意識する余裕ができ、少し実をよじって彼の腕から抜け出そうとすると、すぐに気付いたゲイルも腕を緩めてくれた。

「どうしてシェーラはそんな命令に従ったんだ」

「私が逆らえば、私の、・・・私の人生に関わりのある人間をどうにでもできると。」

そこまで言ったところで、慌ててゲイルから離れベッドにではあったが手をつき頭を下げる。

「お願いです。ゲイル様、私はどうなっても構いません。だから、どうか孤児院のみんなだけは助けてもらえませんか!誰も何も悪いことなんてしてないんです!!」

「シェーラ・・・。わかった、俺の名前にかけて誓おう。あの孤児院に手出しはさせない。だから頭を下げるのはやめてくれ」

あまりに苦しそうな声にそっと頭を上げると、ゲイルは今までに見たことがないほどに悲しそうな顔をしていた。



それほど悲しい顔をさせる頼みだったのかと心配になるが、ゲイルはすぐに表情を元に戻してしまう。

「すまなかった。こんなことに巻き込んで。俺が自分勝手な理由で結婚を引き受けず、さっさと断れば」

「いいえ、謝らないで下さい。ギンブル家がやったことはゲイル様の責任ではありません」

「シェーラ」

「それに貧民の私がゲイル様にお会いできて、短い間でしたが一緒に過ごせたこと嬉しかった。どんな罰でも覚悟しています」

彼に本当のことが話せて、騙して傷つけずに済んだ。もうそれだけで自分の心は満ちたりていた。孤児院も彼が守ってくれるのなら安心だと思える。今までになく心は穏やかで、そのままの気持ちが表情にも表れる。




「とにかく、今後のことを話そう。今回のこの茶番劇をきっちり終わらせなければ腹の虫が収まらない」

そう言う彼の表情は私とは逆に怒りに満ちたものだった。そして彼が真剣な表情で言い出したことは自分には思いもよらないことだった。








その日の晩遅く、シェーラは目を真っ赤に腫らし疲れきった風情で戻った。待ち構えていたマーサもシェラザード様の身代わりによほどひどい扱い受けたのだろうと思えば、流石にきついことも言えず、すぐに休むようにとだけ声をかけて彼女を部屋に帰らせた。






次の日の昼も近くなった頃、ようやく起きてきたシェラザードに呼びつけられ、シェーラは家に戻されることとなった。





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