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14話

約束の時間になった。

今扉の前にいるのは私ともう1人だけ。シェラザードの最も信頼しているメイド、マーサだ。


「部屋に入ったらさっさと布団に入れば後はいいようにしてくださるから」

言葉にはしないが、だからさっさと行けと言っているのが皆まで言われずとも聞こえる気がする。

「わかりました」

行くしかないのだとはらをくくり、小さくノックをしてから、いつも見送るばかりだった扉を開ける。

明かりこそすべて消してあったが、少しは見えるようにと気づかってくれたのか、カーテンがあいている為、月の明かりで部屋の様子が少し伺える。



扉を閉めて立ち止まったままだったが、少し目が慣れるとベッドの位置がわかる。


彼はこの部屋にいるのかと思ったが、ベッドから人の気配はしない。


どうしようかと少し迷う。彼の手紙には「待っている」と書かれていたのに、部屋にいないということは、もしかすると仕事で何かあったのかもしれない。



しかし、だからと言ってさっさと部屋に戻っては叱られることは必死だろう。

仕方がないと小さくため息をついた後、マーサに言われたとおりベッドに入るために歩を進める。




だが、そこまでだった。


いきなり背後から掴まれると床に引き倒される。

あまりに急な出来事に声一つ漏らせず気がつけば、誰かが自分を押さえつけている。月を背にしているせいで顔が見えず誰かわからない。


「シェーラ?」




声には覚えがあった。いや、ありすぎた。

「ゲイル・・・様?」

つい声を漏らすと、彼がどこからか明かりを引っ張りだす。何かでカバーがされていたのか、明かりが漏れないようにしていたらしい。





「やっぱりお前か」

横柄な口調とは裏腹に、床に押し倒されていた体を抱き寄せられる。


先ほどの衝撃でまだ心臓がバクバクと早鐘のようだったのに、いきなり包まれたゲイルの腕にさらなる緊張を強いられ、自分の鼓動が体の中で響くように聞こえる。



「どうしていなくなった」

「いなくなどなってませんわ、わたくし帰ってきたじゃありませんの」

自分の今の立場を思い出し、慌ててシェラザードの口調を真似る。

「シェーラ、シェラザードはお前より太りまくっているじゃないか。いくら俺がろくに会ってないとはいえ誤魔化すのは無理だ」

「い、いいえ。何をおっしゃっていら」

「シェーラ」

少し低くなった声に誤魔化せないことを知る。慌ててゲイルの腕の中から抜け出すと平伏した。



「申し訳ございません」

「シェーラ?!やめろ!!そんな真似をするな。せめて事情を話してはくれないのか」

「申し訳ございません、お許しください、ゲイル様!!お許しを!!」

それ以外にいう言葉が見つからない。ばれてしまった!!これ以上何かを知られては、孤児院の皆が何をされるかわからない!!


みんなの顔が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

どうしたらいいの!?と頭の中がパニックになりかけたところですくい上げるようにして、脇に入れられた手によって抱き上げられる。子どものように抱きあげられて慌てて抗おうとするが、暴れるまでもなくベッドの上に下ろされる。



どうするのかと思ったが彼も自分と同じくベッドの上に座った。

「落ち着け。いいな」

言葉と共に視線を合わせ目を覗き込む。

「・・・はい」

まだ頭の中にはどうすればいいの?!という単語が駆け巡っていたが、彼の顔を見ることで少しだけ落ち着く。





なんだか懐かしくすら感じる位置に、二人で過ごした穏やかな夜の時間を思い出し、目に涙がこみ上げる。


「いいか、絶対に悪いようにしないから、出来るだけ正直に話してほしい。」


もうどうすればいいのかわからない。

孤児院のみんなのために今日まで頑張ってきたのに、全てが無駄になってしまった。あの貴族の位を振りかざす女にみんながどんな目に合わされるのかと思えば、正直恐ろしくてたまらない。




でも、貧民だろうと同じ国民と言ってくれた彼なら、・・・ゲイルなら助けてくれるかもしれない。信じたいというすがるような気持ちでうなずいた。








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