婚約者が聖女の護衛に指名されたけど、通例通りなら女騎士がなるはずですよね…?
「えっと、聖女様の護衛に選ばれたのですか…?」
婚約者のライアン様から、思いがけない報告を受けて面を食らってしまったのだった。
我が婚約者は次代の伯爵家当主でありながら、実力も兼ね備えている騎士様だ。
それでも、そろそろ家を引き継ぐ方向で進んでいくために、仕事の比重を変えるという話ではなかっただろうか?
それなのに、新規の大層なお仕事なんて。
結婚もして、身を固めてという話だったのに…、あれ、これもしかして、もしかしなくとも結婚式延期…?
「すまない、リゼット。聖女殿のご指名なんだ」
ライアン様が申し訳なさそうに眉を顰めているのに、心の奥の方がモヤッとした。
「聖女様の…」
聖女というのは、何十年に一度か現れる浄化魔法の使い手のことだ。
浄化魔法を使える者は聖女様しかおらず、新しい聖女が現れるたびに国で保護し、身分を保証してきた。
その代わり、国を巡礼してもらい各地で浄化魔法をかけてもらう。
聖女様の魔法のおかげで、我が国は何百年も安泰なままだ。
それもあって国民の中には聖女ファンも多く、今回現れた新しい聖女にも皆が期待している。
先代の聖女様は物腰の柔らかいご婦人であり、もうすぐ70歳を迎える頃だった。
そのために、引き継ぎなどは猛スピードで行われたと聞いている。
だがしかし、聖女とはいえ相手は女性なのだ。
いくら国に仕える大事な人とはいえ、婚約者が四六時中そばにいて守るというのは、いい気はしない。
第一、通例通りなら聖女様を守るのは──。
「そもそも、聖女様をお守りする騎士は女性騎士ですよね? 先代の聖女様も皆さん女騎士だったと記憶しているのですが、どうしてライアン様が指名されたのですか?」
「えっと…」
「ライアン様でないといけない理由がおありなのですか?」
「あ、そのっ、王子殿下にも頼まれてしまったもので、さすがの俺も断れなくて…」
「……それは、断れませんね」
言い淀む婚約者には違和感を覚えたが、王子殿下の名前を出されたらこちらからは何も言えない。
なんだろうか、今すごく何かを隠されたような…。
「だ、だがっ!聖女様の巡礼にはついていかないから!」
必死な様子で私の肩を掴むと、いつもより大きな声でそう言われた。
聖女の巡礼は、数ヶ月後から始まることになっている。
長い間旅に出ることになるために、基本的には未婚の騎士がついていくし、そのために結婚をしない女騎士は多くいる。
この国にとって、聖女の次に女騎士が重宝されると言ってもいいほどだ。
手に職をと思うタイプには向いているし、何より聖女の護衛という箔がつく名誉な仕事は、女騎士の特権とも言えた。
それなら、まだ……。
「それまでに後輩を鍛えるし、その先に護衛に選ばれることもないはずだし!俺の仕事はそこまでだからっ!」
「は、はいっ…」
「リゼットとの結婚式も延期させないっ!それは絶対に阻止するからっ!!」
「あら、そちらも変更かと思いました…」
「それだけは絶対にさせない!!」
いつになく力強いライアン様に、少しだけ疑わしく思っていた自分に罪悪感が湧く。
聖女様相手に護衛なんて名誉なことだし、正直鼻の下を伸ばしてもおかしくはない案件だと思っていたのだけれどそうでもない……?
なんだか落ち着きのないライアン様に多少の疑問は湧いたものの、結婚式が延期にならないのは嬉しいことなので、ひとまず飲み込むことにした。
「わかりました、お仕事頑張ってくださいませ」
「ああ、ありがとう。それと、この件は口外禁止で頼む」
「聖女様の護衛につくことを、ですか?」
「ああ、今少し立て込んでいるから、外野に騒がれると面倒なんだ」
「わかりました、私の胸のうちに秘めておきます」
「うん、頼む。リゼットにしか言ってないからよろしくね」
ライアン様に念押しされて、やっぱり変だな…と思いつつも、その日はそれで終わったのだった。
いや、やっぱりおかしい…!!
いくら忙しいライアン様とはいえ、こんなに私に会いに来ないのははじめてだ。
聖女の護衛に選ばれたと報告を受けて、ひと月ほど。
ライアン様はとにかくお忙しいようで、家にも帰れずに、騎士用の宿舎を間借りして寝起きしているらしい。
私がライアン様の家を訪ねても意味はなく、一人粛々と結婚式の準備をしているが……。
婚約以降、こんなに放置されるのははじめてだ。
こんなこと考えたくないが、やっぱり聖女様に心が揺らいでしまったとか……。
それにしては、あの時の態度はそういう感じでもなかったんだよなぁ、と不思議に思ってしまう。
ライアン様は良くも悪くも嘘をつけない人なので、私の見た目がライアン様の好みではないことにはとっくに気づいている。
一緒に行った夜会などで、グラマラスなお姉様方が近くを通るとチラリと見て視線を戻す、というライアン様をよく見てきたもの。
その度に、「あっ、しまった…!」みたいな顔をして、反省したような顔でしょげて私の顔色を伺うのだ。
最初の頃はそれにムッとしていたこともあったが、今では可愛らしいくらいにしか思わない。
見た目が好みの話なら、私だってライアン様は別に好みではないけれど、でもとっても好きな人には変わりない。
ライアン様も私を婚約者として大事にしてくれているのは、伝わっている。
だから、ライアン様も私のことが好きだと思うのだけれど……。
聖女の護衛報告に来たライアン様は、あの「しまった!」感が全くなかった。
どちらかというと、うんざり…?みたいな、そんな感じ。
自分の都合よく考えすぎ…?
「ああっ、もう…!ライアン様のばか!聖女様の護衛なんて引き受けないでよ!」
モヤモヤしたままいるには長くて、こちらもそれなりに譲歩しただろうと自分に言い訳をしながら、ひと月ぶりに婚約者に会いに行くことにした。
「えっ、こちらにライアン様はいらっしゃらないのですか?」
久しぶりに差し入れという体でいつもの訓練場にやってきたものの、受付の人に不思議そうな顔をされてしまった。
「はい、この時間でしたら王子殿下と一緒に神殿に行かれていると思いますよ?」
「こちらの騎士訓練場ではなく?」
「はい、最近のライアン殿はずっと聖女様のおそばにいられるので」
「そう、でしたか……」
わかりやすく元気をなくした私に、受付係は慌てて一枚の札を差し出した。
「あ、あのっ、こちら神殿の訪問証になります!こちらをお持ちいただければ、ライアン殿との面会できると思いますよ…!」
「あら、お借りしてもよろしいのですか? 私、部外者ですけど…」
「婚約者殿はライアン殿の関係者ですしっ、聖女の護衛の件はお聞きになっているのですよね?」
「はい、それは知らされていますが」
「でしたら、問題ございません。ぜひ、お使いくださいませ」
そう言って、受付係はにっこり笑って親指をグッと立てたので、笑ってしまった。
「ありがとうございます、お借りします」
王城のそばの訓練場から馬車で移動すること10分ほど。
神殿に着いて、受付で札を見せた。
「あの、こちらで聖女様の護衛をしている伯爵子息と面会がしたいのですが」
「どういったご関係で?」
「婚約関係にございます。リゼットが来たとお伝えいただければ、わかると思うのですが…」
「ああっ、あなたがリゼット様でしたか!」
「え?」
神殿に仕える神官に知り合いはいなかったと思うが……。
思わず首を傾げると、神官殿はクスリと笑って札を受け取ってくれた。
「ライアン様からお噂はかねがね」
「……それはとても嫌な予感がするのですが」
「いえ、『愛しい婚約者ともうしばらく顔も見られていない!最悪だ!』と愚痴をこぼされていたくらいですよ」
「…………すみません」
恥ずかしくて顔を覆いたくなったけれど、受付の神官殿は気にすることなく右手をさして道を教えてくれた。
「ふふふ、仲がよろしいことはいいことですよ。こちらの道をまっすぐ行っていただいた突き当たりに金の装飾の扉がございます。そこに、聖女様と王子殿下と一緒にいられますよ」
「ありがとうございます」
「あ、一つ確認なのですが」
その道を行こうとしたがすぐに引き止められて、私は手に持っているバスケットを持ち直した。
「はい、なんでございましょうか?」
「リゼット様は、聖女様のことはお聞きになっているのですよね?」
聖女様のこと…? ライアン様が聖女の護衛に指名されたというのは知っているが。
あとは、口外禁止だということも知っている。
「はい、ライアン様が聖女様に指名されたのですよね」
「ああ、知っているのならよいのです。引き止めて申し訳ございません。どうぞ、ライアン様にお顔を見せて差し上げてください」
そうにこやかに微笑んだ神官殿に背中を押されて、私は廊下を歩いていった。
どうしよう、急に来て驚かせてしまうかもしれない。
でも、でも、いい加減私だって顔が見たいし。
ひと月もレディーを放っておくのは、あんまりだと思うの!
言われた通りの金の装飾のついた扉の前まで来ると、足を止めて深呼吸をした。
……ちょっと顔を見て帰る、ちょっと顔を見て帰るだけよ。
その、……聖女様がどんな方かなんて気になってはいないわ。
…………ライアン様の好みのグラマラス系お姉さんではありませんようにっ!!
意を決してノックしようとした時、部屋の中から乱暴な声が聞こえた。
「──だからっ、これだけやってるんだから、これは好きにさせろよっ!」
な、なに…っ!?喧嘩?
びっくりして固まっていると、ライアン様の声も届いた。
「これ以上、困らせないでくださいよっ……!」
ライアン様の切羽詰まった声に、気づいたらノックもせずに扉を開けてしまっていた。
「誰だっ!」
「うわああっ…!勝手に開けちゃダメですよ、って、リゼット!?」
王子殿下の鋭い声とライアン様の素っ頓狂な声が聞こえてきたはずなのだけれど、私の頭を支配したのは真ん中に突っ立っている少年だった。
王子殿下とライアン様と、少年……?
黒髪に黒目とこの国では珍しい色を持つ少年が、こちらを睨んでいる。
王子殿下もいらっしゃるのに、私は粗相をしっぱなしだが、うまく取り繕えなかった。
「これは一体どういう…?」
私は自分で乗り込んだくせに、首を傾げてしまったのだった。
「せ、聖女様が男…!?」
なんとか部屋の扉を閉めて話を聞くことになったのだが、事実は予想の斜め上を行った。
あんぐり口を開けたまま閉じられない私を見て、男性陣たちは気まずそうにそれぞれ頷いた。
聖女様が男、聖女様が男性、聖女様が少年……!?
目の前にいる黒髪黒目の少年は見えているのだが、いまいち頭の中で結び付かなくてじっと凝視してしまう。
その聖女様本人は、不機嫌そうにムスッとしている。
「今代の聖女殿は、珍しく男性が選ばれたのだ」
「そ、そんなことあるのですか…?」
私のまだ取り繕えてない驚いた声に、王子殿下は真面目な顔に戻って頷いた。
「数少ないが実例はある。きちんと歴史書にも残っているし、まあほとんど伝わってはいないが…」
「そうなのですか?」
「聖女は『女性』だという先入観があるだろうし、それを崩してまで男性だと主張する利もない」
「そ、そうなの、ですか…?」
「聖女が女性だから応援したくなる者が一定数いるからな。女性が長旅に出るというだけで、支持を得やすい。それは求心力にもなる。だから、今代と同じように公には性別は隠されてきたのだろう」
「な、なるほど……?」
それで聖女のことに関しては口外禁止であり、先ほど受付で神官殿に確認されたんだ。
『聖女様のことはお聞きになっているのですよね?』と。
ああ、だから──。
「だから、今代の聖女様の騎士は男性ばかりが選ばれているのですね」
私の呟きに、誰も否定しなかったからきっとそういうことなのだろう。
聖女様が女性だから女騎士が選ばれてきたように、今代の聖女様が男性だったから男性騎士が選ばれているんだ。
だから、ライアン様も選ばれたのだ。
どうやら、私は最初から全く違う誤解をしていたようだ。
「……よかった、グラマラスな方じゃなくて」
「なっ!そんなことを気にしていたの!?」
私の呟きは耳がいい婚約者に拾われてしまい、すぐにぎゅううっと抱き締められていた。
「あ、あのっ、ライアン様、人前…!」
「俺には、リゼットだけだよっ!?」
「知ってます…、あの離してください」
私はライアン様の腕の中から、なんとか顔を出して主張したが聞いてはもらえず。
ライアン様は私をきつく抱き締めたまま、王子殿下に向かってぐわっと叫んだ。
「もう、ほら〜〜〜っ!だから、リゼットには本当のことを話させてくださいって言ったじゃないですか!!!これで誤解されたまま、愛想でも尽かされたらどうしてくれるんですっ!?」
「そんなの繋ぎ止められない、貴様が悪い」
「僕だって、好きでお前を選んだんじゃない。この王子がライアンなら面倒ごとを片付けるのに適任だから選べって言ってきたからだし」
「う〜〜〜わっ!!知りたくなかった新事実まで聞かされたっ!どうりでおかしいと思ったんですよ、いきなり俺が指名されるなんてっ!!!」
「……余計なことを言うな、聖女殿」
「だからっ、僕は女じゃないって言ってるだろ!」
「結婚式の準備だって本当はリゼットと二人でしたかったのに、殿下のせいでお預けくらってるんですからねっ!?」
「知らん」
なんだろうか、このカオスな状況は……。
なんとなくいつもこうやって3人で揉めているのが容易く想像できて、ライアン様は出世したというよりお世話を押し付けられていたのね…と苦笑いしてしまった。
「それで、先ほどは何で揉めていられたのですか? 随分大きな声が廊下まで響いておりましたけど…」
私はそろりと話を逸らすと、聖女様がまた声を荒げたのだった。
「こいつら、僕に男だってバレるなって言って、これを着ろって言うんだよ!?」
そう言って手に取った服は、歴代の聖女様が着られていた真っ白な衣装だった。
袖の形が変わっていて、ベールもついていて、そして何より裾がひらひらのドレスのような形のものだ。
「……それは、少年に押し付けるのは酷ではありません?」
「っ!! お姉さんもそう思うよねっ!? こいつらの方が言っていることおかしいよね!?」
聖女様はぐんぐんと近づいてくると、私に向かって同意を求めた。
そのあどけなさも印象的だったが、どちらかというと端正な顔立ちに…。
「……綺麗なお顔」
「あーーーっ!リゼット、見ちゃダメ!!!」
ライアン様の声が耳を切り裂いちゃうんじゃないというほど突き刺さったあと、いきなり目を隠された。
「なんですか、ライアン様。手で覆わないでください」
「リゼットは、聖女様見るの禁止!」
「なんでですか」
「だって、だって…っ、……リゼットの好みの顔じゃないか、聖女様はっ!」
……やっぱり婚約者というものは、互いをよく見ている。
「あほらし」
「さて、聖女殿。いい加減そちらを着てもらうよ」
聖女様の容赦のない声に、呆れたような王子殿下の声も聞こえた。
「嫌だって言ってるだろ〜〜!!!ふざけんなよ、巡礼拒否したっていいんだぞ僕はっ!」
「イヤイヤばかり言うのではないよ、子どもじゃないんだから」
「僕はまだ15歳だ」
「我が国は16で成人、そんなの誤差だよ」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ聖女様といなしている王子殿下の様子は、目隠しされて見えないが、私はそーっと手を挙げた。
「では、こういうのはいかがですか…?」
そう言って、私はその場で裁縫道具を借りて、仮縫いをしてみせた。
聖女衣装の見えない内側に、貴族の子どもたちが着るような短いズボンのようなものを付け足してみた。
「これで履いている分には、多少はひらひらなのは気にならなくなるかもですけど」
「……もっとキラキラしてないやつがいい」
グイッと聖女様の顔が近づいてきて、どきりとする。うん、顔がすごく好きではあるわ。
「それは王子殿下と交渉してくださいませ」
「すごいなリゼット、腕を上げている…」
「ああ、最近結婚式用のベールに花を縫い付けてばかりいたので」
「……全然力になれてなくてごめん」
しょぼんとしたライアン様の横で、聖女の衣装を持ち上げて少年は肩を竦めたのだった。
「うん、でもまあ、これならまだいいよ。ありがとう、お姉さん」
「いえっ…、聖女様のお役に立てたのなら…!」
「ダメダメダメッ。リゼット、ときめいてるでしょっ!?浮気はダメだよ!」
「……好みの造形が、目の前にあるなと思っているだけですよ。……歴史的絵画を見ているようなものです」
「それでも、ダメだってばあ!」
「ライアン、うるさいぞ。リゼット嬢、手伝い感謝する」
王子殿下にそう言われて、恐れ多くて首を振った。
「聖女様の神聖なご衣装に細工をしてしまいましたし、お礼を言われるようなことでは」
「これから国民全員を、聖女は女性だと騙していくんだ。些細なことだよ」
そう言われてしまうと、確かに…?
「さて、では着替えてもらおうか聖女殿」
「……チッ、偉そうに」
偉いんですよ、王子殿下なんですから…。いや、聖女様と同等か。
「お姉さん、ありがとね。僕何も持ってないからお礼ができないんだけど、今度結婚式があるの?」
「え、はい。半年ほど先に予定しております」
私が素直にそう答えると、顔のいい少年はうっとりするような顔でニヤッと笑った。
その顔はいかにも子どもが悪巧みを考えているような顔で、隣とその隣からうんざりした空気が漂った。
「じゃあ、その日に僕が虹を出してあげるね。それでお礼ってことにして」
「聖女様はそんなことができるのですかっ…?」
「実は、浄化以外にもできることがたくさんあるんだよ」
「……それも口外禁止と言ってあっただろう?」
王子殿下の低い声に、聖女様は全く気にすることなくあっけらかんとして続けた。
「だからライアンを借りちゃったお詫びも含めて、虹を出すよ。きっと、馬鹿な連中が『聖女の祝福だ〜!』って言って、はしゃいで持ち上げてくれると思うよ」
「……何ともお礼を申し上げにくい、お礼にございますね」
正直にそう言うと、聖女様は一瞬ぽかんとしてから豪快に吹き出した。
「あっはっはっ、お姉さん大好き!清廉潔白な聖女じゃなくてごめんね〜?」
「いえ、聖女様が楽しくて素敵な方だと知れて、嬉しく思います」
「巡礼から帰ってきたら、お姉さんに会いに行ってもいい?」
「いいえっ、来ないでください!リゼットを、これ以上惑わさないでください!」
「失礼ですね、ライアン様。心変わりなんてしてませんよ」
「ううう、リゼット、お願いだから俺だけ見てて…」
「情けないな、ライアン」
「だめじゃん、ライアン」
「お2人とも黙っててください」
思いがけない出会いとなったが、ここ最近で一番楽しい日となったのだった。
そうして、聖女様御一行はようやく巡礼の旅に出られた。
王都では盛大なパレードが行われて、聖女様のお見送りをしたが、彼がきちんと聖女の衣装を身に纏っているのが見えて、ホッとしたのはきっと私だけではなかっただろうなと思う。
それから何ヶ月も経った私たちの結婚式当日、誓いのキスのタイミングで本当に虹がかかって、予告があったとはいえ驚いた。
聖女様は約束を守ってくれたらしい。
その虹を見ながら、ご無事のお帰りをお待ちしていますと、心の中で呟いた。
これくらいならライアン様にも許されるだろう、あれだ、私も聖女様のファンの一人のようなものだから、うん。
虹が出るなんて縁起がいいと、私たちの結婚式はとても祝福されたし、聖女様の力だと知られると箔がついたように我が家は一目置かれるようになった。
それはある意味ライアン様が護衛に選ばれた恩恵であって、私とライアン様は互いに顔を見合わせて笑ってしまうのだった。
了
お読みくださりありがとうございました!!
280日目。




