どうやらどのルートでも断罪されて結果的に死ぬらしい悪役令嬢に転生したようなので、断罪されるまでの間好き勝手に生きることにしました。
「…詰んだ」
リリアージュ・アウルム。
アウルム家…我が国筆頭公爵家の長女として生まれた私。
そんな私は幼い頃からどこか大人びていて、何故か他の同じ歳の子達より優秀だと噂されていた。
その理由が三歳の誕生日を迎えた今分かった。
転生者だからだ。
「三歳児にこんな記憶と知恵をそのまんま思い出させんでくれよ…」
鏡を見て、頭痛に襲われ思い出した記憶。
前世天涯孤独でブラック企業勤めという散々な人生を送った挙句、本当にたまにしかない休日に唯一の趣味の乙女ゲームを遊んでいたところ急に日々の無理が祟ってそのまま息を引き取った。
心臓発作か何かだろう。
ああやだやだ、思い出したくなかった。
そしてもう一つ思い出したくなかったことが。
「死ぬ直前にやってた乙女ゲームの、絶対最終的に死ぬ悪役令嬢に転生してる…」
何が制作チームをそこまで駆り立てたのか、その乙女ゲームの悪役令嬢は必ず最悪な死に方をする。
メインヒーローの第二王子のルートなら、毒杯を下賜されて。
侯爵令息とのルートなら、貴族籍剥奪の末国外追放されて餓死。
騎士団長令息ルートなら、犯罪奴隷に堕とされて過労死。
魔術師団長令息ルートなら、暗殺。
弟ルートなら、自害。
「……やだぁ」
死にたくない。
もう死にたくない。
でも、悪役令嬢ルートを回避しようとしても無理かも。
だって、強制力とか色々あったらもう逃げ場ないし。
「やだぁ、やだぁ、前世の二の舞はやだぁ…」
ならどうするか。
そう、そうだ!
「…せめて今世は、断罪されるまでで良いから……家族を愛して、家族に愛されて………人並みに我儘も言って、好き勝手して過ごしたい」
そう、そう、それだ!
そう生きれば良いんだ!
幸い今世の両親…悪役令嬢リリアージュの両親はリリアージュを溺愛している。
だから、甘えまくろう。
弟も可愛がろう。
「婚約者は…まあ会ってから考えるか…」
ヒロインがどのルートに入るかによって、私の婚約者も変わる。
……いや、私の婚約者に選ばれた人をヒロインが掻っ攫うと言う方が正しいのだけど。
「それより!私は!両親と弟に愛し愛され幸せに生きるぞ!断罪されるその日まで!」
えい、えい、おー!
と決意してから早くも四年。
七歳の誕生日を迎えた私。
今日、両親の決めた婚約者を紹介されるらしい。
「ちなみに、今回の人生がどうなったかというと…最高なのよね」
まず、両親と弟がいる…家族がいて、みんなから愛し愛され幸せに暮らしている。
この時点で幸せ過ぎる。
たっぷり甘えて、弟は甘やかして、幸せいっぱいだ。
使用人たちとの関係も幸い良好だ。
使用人たちにも甘やかされて愛されて、本当に恵まれている。
「で、みんなから愛し愛されてるのはいいけど…好き勝手に生きる、の方は……」
こっちもバッチリ。
この世界、文化的にはナーロッパ系らしく魔術で水洗トイレやらなんやらはもう整っている。
家具家電もほぼ現代日本の社会と変わらない。
仕組みは魔術でなんとかしてるらしい。
ただし現代日本の社会とは異なることがいくつか。
貴族社会となっていて、身分制度ははっきり残っている。
魔術が発達していて、その分理系の分野は全く進んでいない。
そしてこの世界、もう紙の本も安く買えるくらい紙や製本の技術は発達してる…というか魔術でなんとかしてるみたい。
小説なんかもたくさん出てる。
音楽文化も大体現代日本の社会と変わらないらしい。
だから私も好き勝手に、現代日本の社会における「音声合成ソフト」と言われるソフトに似たものを「パソコン」に似たものにインストールして、曲を好き勝手に作っている。
これが結構ウケて、私は一躍有名作曲家になった。
まさか私にこんな才能があるとは…七歳にしてかなりのファンを獲得した私は、本名顔出しで活動したため家の利益にもなり。
「結果的に、領地にも観光とかで結構な利益をもたらしたのよね」
作者ファンによる聖地巡礼のおかげで、我が公爵領は観光分野でやたら強くなった。
もちろんその他の事業も勢いに乗って拡大。
いやはや、好きに生きて家の役に立つとは美味しいな。
「リリー、そろそろお時間よ」
「はい、お母様!」
「もう、リリーは可愛いなぁ」
「えへへ、お父様もとってもかっこいいわ!」
「姉上、僕はー?」
「アランもとっても可愛いわ!」
ああ、家族とのこういう何気ない時間が本当に幸せだ。
だけどこの後、ヒロインに取られる男と会わなきゃいけないのよね…。
ああ、なんかやだなぁ…。
「お初にお目にかかります、可憐なお嬢さん。ヴィンセント・ピクトゥーラと申します」
「あ、えと、お初にお目にかかります。リリアージュ・アウルムです」
なんと、両親から紹介されたのは攻略キャラの誰でもない…多分、モブ。
かなり失礼な言い方になるけど、モブらしく眉目秀麗とはいかないが不細工でもない普通の見た目。
声も、良くも悪くも普通にどこにでもいそうな特徴のない声。
ただ雰囲気が他のご令息方よりチャラそうな…攻略キャラではなくて一瞬安心したけど……ヒロインにころっと行かれたらどうしよう…。
「ところで、君…」
「は、はい」
「僕と同い年で、あんなにいっぱい名曲を作るなんてすごいね」
「え?聞いてくれたんですか?」
「もちろんさ!君の大ファン…と言ったら、驚かせちゃうかな?」
「えっ」
え、やだ、嬉しい!
好き勝手に曲を作ってるけど、やっぱり認められると意欲は増す。
ファンが多ければ多いほど、創作意欲は増すのだ。
少なくとも私はそういうタイプ。
「君の曲は独創性に溢れてて好きだよ」
「ありがとうございます!嬉しいっ」
「曲について語り合いたいんだけどいいかな」
「もちろんです!まずどの曲から…」
私たちが私の曲で盛り上がる中、大人たちは顔合わせが上手くいったと胸を撫で下ろしていたらしい。
そんなことは気にも留めず私たちは時間を忘れて語り合った。
その中で気付いたのだけど、この人全然チャラくない。
至って真面目な子だ。
ただ気障なだけ。
「では、今日はこれで。会ってくれてありがとう、リリー。またね」
「こちらこそありがとうございました!是非また!」
ということで、私の中の彼への好感度は一日で最高潮に。
あちらの反応もすごく良かったので、私達は早いうちから打ち解け相思相愛になったものだと思う。
そうなると、警戒すべきはヒロインだけだけど…。
「あの、お父様、お母様」
「うん?」
「どうしたの、リリー」
「どうしてヴィニー様を私の婚約者に?」
「そんなのもちろん、他のどのご令息方より貴女の音楽を認めてくれていたからよ」
「お前の音楽の良さがわかるとは、見る目がある。あちらも侯爵家で、第二王子派同士なのもあるがな」
なるほど。
「お父様、お母様、大好きー!」
「あ、姉上狡い!僕もー!」
「あらあら、可愛い子」
「良い子たちだ、おいで」
「「お父様、お母様ー!」」
そんなこんなで、家族仲を益々深め。
音楽も楽しみつつ色々な曲を世に送り出し。
婚約者との仲も上手くいき。
気付いたら十六歳になり、乙女ゲームの舞台『貴族学院』への入学が決まっていました。
「あああ…不安だわ…」
変なことになったらどうしよう。
でも今更だし…。
「ええい、なるようになれ!」
明日が学院の入学式。
ヒロインに婚約者を取られないように頑張ろう!
そして入学式当日。
門をくぐった私に、声が掛かった。
「あ、あの!」
ふとその声に振り返ると…なんとヒロインがいた。
「…え」
「あ、とと、突然お声掛けして申し訳ありませんっ…」
「いえ、あの」
「さ、サンクタ男爵家のメイと申しますっ!ファンです、サインしてください!」
「ええっ!?」
ファン!?
ヒロインが、悪役令嬢のファン!?
あ、いや、作曲家としての方か…いやでもすごいことになったな。
「えっと…ええ、よろしくてよ…?」
「ありがとうございます、家宝にします!」
「そこまでしなくても…はい、どうぞ」
「わあ、リリアージュ様のサインっ!絶対大切にします!」
「え、ええ」
どうしよう、このまま仲良くしても良いのかな。
…ああ、そんなことを考えてる間に周りの好奇の目がメイに!
私は言わずと知れた名家の娘。
一方でメイは男爵家の娘で…この格差でメイの方から私にアタックをかけてきたのは、最悪メイが別の貴族の娘に睨まれる可能性が……。
仕方ない、目をかけてあげよう。
「メイ、入学式の後一緒に色々見てまわりましょうか」
「え、いいんですか!?」
お目目をキラキラさせてそう言うメイに苦笑する。
そうじゃないと貴女が他の下級貴族にバチボコにやられそうだから誘ってるのよ。
こうなったら私のお気に入りとして可愛がってあげるんだから、覚悟しなさいな。
「はぁー…リリアージュ様、優しい方だったなぁ」
まさか私がリリアージュ様のお友達になれるなんて!
ただ、リリアージュ様の曲の純粋なファンだったのに。
幸せってこういうことを言うのかな。
「あ、でも…婚約者の方は怖かったな」
リリアージュ様の婚約者、ヴィンセント様という方は…リリアージュ様の一番のファンは僕と自称なさっている。
でも私だって、リリアージュ様の曲への愛は負けないんだから!
その私の気持ちが溢れ出てしまったのか、ヴィンセント様からの印象は良くなさそうだけど…負けないもん!
「ふぅ…」
入学して一週間。
ヴィニー様とメイは初日から私を巡って何故かバトル…というか言い合いをしてたのだけど。
結局、私の大ファンのその一とその二として落ち着いた。
ヴィニー様がその一、メイがその二だ。
「リリー、おはよう。サンクタ嬢もおはよう」
「おはようございます、ヴィニー様」
「リリアージュ様、ピクトゥーラ様、おはようございます!」
「おはよう、メイ」
二人に囲まれての学院生活はとても楽しい。
家での生活も、相変わらずみんなから愛し愛され幸せなもの。
だから、早々に『悪役令嬢』の役目からは解放されたのかな…と楽観視していたのだが。
「アウルム様!いい加減にしてください!これじゃあ攻略が進まないじゃない!私を虐めなさいよ!」
何故か自分こそ真のヒロインと思ってる性悪転生者が現れて、ダル絡みされています。
なんでや。
「嫌よ、誰が進んでイジメなんてするものですか」
「そうよ!リリアージュ様がそんなことするわけないじゃない!」
メイが援護射撃してくれるが自称ヒロインはめげない。
「お願いだから虐めてよ!」
「嫌よ!」
「ダメですってば!」
「またやってるの?リリーにそんなことさせるわけないでしょ。帰った帰った!」
「ぐっ…モブのくせに!」
モブと言われてもヴィニー様は首を傾げるばかり。
「それよりいいの?あちらの…君の言う攻略キャラの皆様が呆れた目で君を見てるけど」
「…っ、また来ます!」
「もう来なくていいわよー」
まあ、自称ヒロインは攻略キャラたちにも相当訝しんだ目を向けられているので今のところ『時間の無駄』以外支障はない。
むしろ攻略キャラたちがあのギラギラした欲望まみれの自称ヒロインに怯えて婚約者たちに守られて、婚約者との仲が良くなっているくらいなのでみんなにとって『ちょうど良い』存在かもしれない。
そう思っていたのだけど…。
「リリアージュ・アウルム!貴様は可愛いマリカを虐めたな!証拠もあるんだぞ!貴様を断罪する!」
何故か攻略キャラじゃない第一王子殿下を堕とした自称ヒロイン、マリカ・インポーネレ。
私を悪役令嬢として第一王子殿下の卒業式の場で断罪しようとしてるんだけど、なんで?
ちなみに私達は現在二年生。
それはともかく、第一王子殿下を捕まえたならそれで幸せハッピーエンドでしょ。
まあ、第一王子殿下は『素養がない』ので第二王子殿下が立太子する見込み…つまり第一王子殿下はその程度の人なのだけど。
「お言葉ですが、私は何もしておりません」
「だが、マリカが虐められたと言っている!証拠もある!」
「証拠とは?」
「複数人の証人だ!お前たち、マリカが虐められているのを見たんだよな!?」
「え、えっと………」
「は、はい…」
あ、これは第一王子殿下に『言わされてる』なぁ。
可哀想に、同情はする。
助けられないけど。
同席していた国王陛下と王妃殿下も既になんとなく察しているらしく頭を振っているが…南無。
「では、こちらも主張させていただきますが。そちらのお嬢様にダル絡み…失礼、色々難癖をつけられてこちらが困っていると学院の先生方に昨年からずっと相談しているのですが。そうですよね、先生方」
「リリアージュ様の仰る通りです!」
「な、先生っ、どうして!」
「貴様、なんと卑怯なんだ!先生たちを買収したな!?」
「もう見苦しいからお止めなさい、リカルド」
「母上、しかし!」
王妃殿下が第一王子殿下を保護者席から見下ろして言う。
「その娘の身辺調査は既に済んでいます。お前があまりにも無能すぎてなかなか良い婚約者を用意できない間に擦り寄られたようですが…お世辞にも良い娘とは言えません」
「えっ」
「なっ」
「またアウルム嬢に非がないのももう調査の中ではっきりしています。だから、今回の断罪騒ぎはアウルム嬢の無実で決まりです。お前たちにはアウルム嬢に対する名誉毀損について、追って沙汰を下します。覚悟なさい」
「そんな!」
「母上!」
ということで、断罪騒ぎは結局秒で終わった。
さすが王家。
そして下された沙汰だけど。
第一王子殿下は臣籍降下という罰を。
自称ヒロインは貴族学院を退学の上、子のいない辺境伯の養子となった第一王子殿下の世話係を。
断罪騒ぎで嘘の証言をさせられた子たちは、一年留年が決定した。
ちなみに貴族学院を留年するのは貴族にとって恥。
まして退学となれば、貴族社会では生きていけない。
果たしてそんな子をあの元王子が嫁に迎えるのか…いやむしろ馬鹿だから喜んで迎えそうだな。
自称ヒロインは嫌がりそうな気もするけど、恥という概念がなければやはり喜ぶかもしれない。
まあ、とりあえず。
「これで本当に悪役令嬢お役御免だー!」
やったー、わーい!
「これでメイとヴィニー様と心置きなく学院生活を楽しめる!」
「おめでとう、リリー。やっとあの変人から解放されたね」
「おめでとうございます、リリアージュ様!」
「ありがとうございます、お二人とも!さあ、お祝いに喫茶店にでも行ってパンケーキでも食べましょう!」
「それはいいね」
「ぜひご一緒させてください!」
ということで、悪役令嬢卒業です!




