追憶
四人は、長く生きた。
英雄にもならず、罪人として名を残すこともなく。
ただ、同じ街で、同じ空を見上げながら、理由の分からない欠落を抱え続けた。
ある日、誰かがぽつりと呟いた。
「……俺たち、最初から四人だったっけ?」
誰も笑わなかった。
笑えなかった。
一人目は、夢を見る。
いつも五人分の椅子が並ぶ部屋。
一つだけ、誰も座らない椅子。
目が覚めると、なぜか泣いている。
理由は分からない。
二人目は、記録を見つける。
古い処分記録。
罰則は“五名分”。
だが署名は、四つしかない。
何の罪かも書かれていない。
罰則を受けた覚えもない。
余白に、消されたような跡がある。
三人目は、老眼鏡越しに気づく。
若い頃に作った魔法陣。
五人で組む前提の設計。
一人分の魔力流路が、
今も空白のまま残っている。
四人目は、葬儀で違和感を覚える。
誰の葬儀でもない。
レオンの、静かな弔いの場で。
誰とも結ばれる事なく独身を貫いたレオンの棺に花を置いた瞬間、胸を締めつける痛みが走った。
「……。」
この痛みが悲しみとは違う何かだと言う事はわかるが、それが何かはわからない。
そして、四人は同じ日に、同じ本を見つけた。
禁書庫の片隅。
白紙の一冊。
風がめくったページに、薄く残る筆圧だけがあった。
「 。」
文字は、読めない。
だがその微かに残る筆跡が、胸に落ちた。
四人は、その場で立ち尽くす。
誰も名前を呼ばない。
呼べない。
けれど、確信してしまう。
あの人が消えずにいられたのは、俺たちの誰かが消えたからだ。
帰り道、夕焼けの中で一人が言う。
「……あいつ、臆病だったよな。」
もう一人が、静かに答える。
「だからこそ、出来たんだ。」
誰のことかは、分からない。
だが四人は、その日初めて、胸を張らずに、空を仰いだ。
これは、思い出せない追悼だ。
名も、顔も、声もない。
それでも確かに、五人だったという真実だけが、残った。
誰にも知られない場所で、誰にも記憶されない男が、一つだけ、選ばなかった未来がある。
それは、五人で酒を飲みながら、馬鹿な話をして、上司にまた怒られる未来。
「どうせ出来るわけないだろ。」
そう言って、笑うだけの未来。
彼は、その未来を捨てた。
だが不思議なことに、その未来は完全には消えなかった。
四人が老いて、理由もなく集まる夜がある。
一つ余分に、杯が置かれる。
誰も気づかない。
気づかないふりをする。
それでも、誰かが確かに、そこにいる。
――それでいい。
彼は、選ばれなかった未来の中で、今も、笑っている。




