第2話 私にだけ聞こえる特別な声
「おはよう。リリ。今日も王子の夢、見てたんじゃない?」
「見てないわよ!!!」
当たり前かのように、私の部屋に、彼女はいる。
「着替え手伝ってあげようか?」
「すり抜けるから、何にも触れれないでしょ?」
幽霊が同じ部屋にいるなんて、絶対におかしいのに、なぜか当たり前のようで、安心する。
「そういえば、名前は...?」
「あ!忘れてた!!私はリゼット!」
彼女はにぱっと笑い、私に手を差し伸べてきた。
握手のつもり...なのかな。
私が手を出すと、彼女...リゼットは嬉しそうに手をブンブンと振った。もちろんすり抜けるから、腕を振っているのはリゼットだけ。
「はい、握手!」
リゼットはとても満足そうだった。
「今日のリゼット占いー!!今日は、王子との進展があるかも!!!ラッキーアイテムはー、本!!」
私が身支度をしていると、彼女は楽しそうに、鏡越しに話しかけてきた。
もちろん、鏡には映っていないけど。
◇◇◇
私は今日も、中庭のベンチに座り、カバンから本を取り出した。
私は優しく、本のページをめくる。
私は昔から外で遊ぶのが大好きで、本なんて読んだことがなかった。
でも、ユリウス殿下が読書好きと知ってから、私は毎日のように本を読んだ。
殿下との会話のきっかけになればいいななんて。
そんな考えで読み始めただけなのに、今では本が大好きだ。最初はただ振り向いて欲しかっただけなのに、今では振り向いてもらえなくても、本は読み続けたい。私の安心できる居場所になっている気がした。
「リリー、リリってば!」
はっと顔を上げると、むっとした顔でリゼットが私を見つめていた。
「ごめん、集中してて気が付かなかった!」
私がすぐに謝ると、彼女はまたけらけらと笑った。
「すぐに謝るとこ、あなたのお母さんそっくり!」
「私のママのこと、知ってるの?」
彼女の発言に、私は本を閉じて、彼女に向き直った。
私のママ...。
私が産まれて間もなく亡くなってしまったと聞いている。私はどんな人なのかも知らないのに、リゼットはどうして知っているのだろうか。
「ねぇ、知ってることがあるなら教え...」
「また独り言?」
突然後ろから声が聞こえて、私は椅子から飛び降りた。
「ユリウス殿下!!」
またリゼットと話してるところを見られた...。
殿下にはリゼットが見えないから、大きな声で独り言を言ってる変な人って思われちゃうじゃない!
「あの、独り言じゃなくて、その...」
「別に変な子だなんて思ってないよ。」
私が良い言い訳を思いつかずあたふたしていると、殿下は優しく微笑んだ。
あ...好き。
彼の優しく微笑んだ顔が大好きで、いつか私に向けてくれないかなって、いつもベッドの上で考えていた。
それが現実になるなんて...。
嬉しいような、恥ずかしいような。感情がごちゃ混ぜになった私は、手に持っていた本で顔を隠した。
たぶん、顔が赤くなってるから。
「あれ、この本...」
突然、ユリウス殿下が私の本に触れた。
「これ、貴族令嬢とその近衛騎士が恋に落ちる話だよね。展開が複雑で、文章も多いから、読むの難しい本なんじゃない?」
「この本、知ってるんですか...?!」
私は嬉しさのあまり、顔が赤くなっているのも忘れて、顔を上げた。
ユリウス殿下との会話のきっかけになるなんて、夢にも思っていなかった。
「僕、こういう話、嫌いじゃないよ。」
彼はそう言うと、私の瞳を見た。
「うん、僕も、好きだよ。」
彼の一言に私の瞳が揺れた。
同じジャンルが好きだなんて...!!
会話のきっかけになるどころか、共通点まで見つけてしまい、胸の奥がきゅっと熱くなった。
「私の占い当たっちゃったー!」
少し離れた木の影から、嬉しそうな声が、私にだけ聞こえた。




