至高の一服 / 最後の一服
ストック分のタバコを吸ったら禁煙しようと考えていた
最後の一本は実家で迎えた正月の真夜中に吸うことになった
まさか最後の一服が、こうもあっさり済まされようとは
最後にしてはなんともあっけなくて寂しい
得てして物事の終わりは、こんなものなのかもしれない
最後を飾る至高の一服を、あれこれ考えてたんだけどなぁ
例えば好物を、寿司やピザを山ほど食った後、余韻の中で一服
満腹感と金額が大きければ大きいほど、納得感も強まるはずだ
例えば暖房の効いた部屋で酒を馬鹿ほど飲んだ後、寒いベランダで一服
味はマズイに違いないが、情景のかっこよさで釣りがくるほどだ
一日外で用事を済ませてクタクタになった後、風呂上がりに一服
多分これが一番うまい、一日我慢した後が一番うまいんだから
朝起きて体幹トレーニングをした後、コーヒーと一緒に一服
朝日とコーヒーの湯気に混ざった煙は、どこか儀式めいてるんだ
実際の最後の一服は、そんな劇的なもんじゃなかった
夜、俺はコソコソとベランダに出て、タバコに火をつけた
風が強く、遠くでゴーゴー鳴っていて不穏だった、寒かった
手前の道路は人通りが全くなく、不気味なほど静かだった
新年のめでたさなんて、俺自身にも周囲にも欠片もなかった
大きな川を挟んだ向こうに、車のヘッドライトが小さく見えた
周囲の家は灯を消して、この家だけが煌々と明かりをつけていた
空は雲で覆われて白濁りしていた、田舎のくせに半端に明るかった
タバコの味は全然しなかった、携帯灰皿だけがパンパンになった
帰省してから最もしょうもない一服だった、最悪とさえ呼べない
物事の終わりは得てしてあっけないものだ、そんなこと分かっていたが
あと一箱買って、もう一度最後の一服を、やり直すわけにはいかないかなぁ




