エピローグ
薄暗いセントラルの空間に、無機質な駆動音が響く。そこには、生命体と呼べるかすら定かではない、得体の知れない存在たちが、淡々と作業を繰り返していた。彼らの視線の先には、一人の人間がいた。彼らはそれを『親株』と呼んでいる。
感情を一切感じさせない動作で、そのセントラルの存在は親株を指さした。親株は抗う間もなく、次々と瞬間移動させられる。同時に、白いもやが群れを成すように発生した。
別のセントラルの存在が白いもやを特殊な装置へと導き入れた。装置が稼働するたび、生きた人間の肌色と微かな息遣いを帯びた個体が次々と生成されていく。彼らにとって、これは生命の創造ではなく、単なる資源確保にすぎなかった。
とあるセントラルの存在が、はあ、と大きく伸びをした。彼らは、次の休憩のことでも考えながら、関心の薄い視線で、淡々と生命の誕生を見つめていた。その効率的な生産の裏には、個々の命への慈しみも、奪われる自由への呵責も存在しなかった。
長い月日が流れた。深園はその巨大な管理システムを稼働させ続けていた。その上空からは偽りの太陽が降り注ぎ、まるで時間が止まっていたかのように、精密な箱庭のままだった。
その一角、以前と変わらない十二区画で、一人の少女が退屈そうにモニターで映画を見ていた。その顔は、あの日の林檎と瓜二つだった。
「この物語の結末を予想していい?」
林檎の携帯端末から、木蓮の声が聞こえる。彼女も自分の部屋で、同時に同じ映画を視聴しているのだろう。
「いいよ」
「あのね、この物語はどうせ……」
「ねえ、また見ちゃった!」
この声の主は梅だ。はつらつとした彼女の声が、二人の通話に割って入る。
「どうしたの」
林檎と木蓮は少しだけ期待するように梅の話を聞く。
「また幽霊を見ちゃった」
梅は興奮しながら言う。
「どうやら、幽霊は二種類いるの。私たちと同じくらいの大きさの子と、ひと回り大きな子。幽霊っていうかさ、なんていうか……深園に囚われた亡霊、って感じかな」
梅の言葉に、林檎は小さく首を傾げる。林檎には、そのようなものは一度も見えたことがなかった。
「はいはい」
木蓮が面白そうに軽くいなす。
深園を満たす静寂の中に、その亡霊たちは、かつての記憶を宿したまま留まっていた。彼らは、すべての物語の行く末を見届けるかのように、複製された彼女たちの日常を静かに見つめ続ける。
彼らは決めていた。この物語の結末を、陳腐なもので終わらせる気はないと。彼女たちがその運命を変え、誰も知りえぬ終焉を迎えられることを、静かに祈りながら。




