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天を穿つ黴  作者: 宇白 もちこ
第五章 選択の果て
30/33

5-5

「探してきます」


 ユキトは監督の部屋を出ると、浅い溜息をついた。

 シュンのやったことに、初めに気づいたのはセントラルだった。セントラルからの連絡を受け、監督が慌てて各課の代表者を招集したのだ。皆、責任の所在が誰になるのかということにしか、関心がないようだった。誰かへのあからさまな糾弾こそしないものの、自分のせいではないという点は言葉の端々で何度も主張する。シュンと連絡が取れないことを誰かが耳に挟んだようで、ユキトにはまず彼を探す仕事が命じられた。各課の代表者の顔からは、なんとなく監視課のせいにできそうだという安心が垣間見えた。


 今回の件で手が加えられたシステムの修復と調査は、セントラルが行うらしい。また、深園における各操作の権限が、監視課から一時的にはく奪された。天井を閉じたり、照射を再開したりといった操作は、事態の全容が明らかになるまではセントラルが行うらしい。

 ユキトとしては望ましくない展開ではあったものの、まだ自分の意見を通す余地はあると考えていた。


 責任を問われる心配のないHUE-33の住人たちは、どこかうきうきと、そしてそわそわしているように見えた。年末の空気に似ている。彼らの関心が向いているのは、次の勤務地がどこになるかということだけだろう。毎日同じような日々を過ごしていた彼らにとって、シュンのやったことは、換気のようなものなのだと思う。


 形だけでも指示に従う必要があるため、ユキトは監視課の数人にシュンについて尋ねてみた。シュンがいなくなったことは既に知れ渡っており、事件の犯人もシュンだという見方が広まっているようだ。しかし、それを悪とする空気は薄い気がした。興味がないと表現すべきだろうか。偽善者だと嘲笑するような空気が漂っているが、一緒にほんの少しだけ憧れのようなものも混ざっているように感じる。


 シュンが人生を投げうってやり遂げたことを、正確に理解している人間はここにはいないようだ。ユキトは諦めと孤独に、背中を丸める。

 しかし俺は、この世界で生きていくと決めたのだ。ここはまだ通過点に過ぎない。


 シュンに電話をかけるが、何度かけても出ない。ユキトとシュンたちの関係性については、誰にも辿れないようになっている。ユキトとシュンの仲については周知の事実ではあるが、今回の件にユキトが関わっている証拠を掴むことはおそらく不可能だろう。

 ユキトは、シュンとの連絡がつかず、途方に暮れた演技をした。もちろん事前の話し合いで、こちらからの連絡には応じないように伝えてある。


 当然ながらシュンを見つけることはできず、ユキトは再び監督の部屋へ呼ばれた。他の課の責任者も揃っているようだ。


「犯人について分かったことは、まだない」


 監督が報告する。セントラルは、どこまで情報を掴んでいるのだろうか。ユキトの予想とは異なり、深園の天井と出口は開いたままになっているようだ。


「今後の対応について、セントラルはまだ決めあぐねているようだ。参考程度だとは思うが、我々に意見を求めてきた」


 監督は、一人ずつ意見を尋ねた。こういう場合、ユキトはいつも最後に回される。それは、自分が評価されている証だと分かっていた。先に良い意見が出ると、他の人間は自信を損ね、考えることをやめてそれに賛同するからだ。


 ユキト以外の人間は、口を揃えて「セントラルの判断次第なので何とも言えませんが」という自信のない枕詞を使い、「少なくとも人命を脅かすべきではない」という聞き飽きた結論で意見をまとめた。そして思った通り、監督は最後にユキトに意見を求めた。



「今後の展開としては、他の方が挙げていた、深園の状態を無理やり元に戻すというものと、このまま深園を捨て置くという二つの他にも、三つ目のやり方があると思っています。


 先に前者二つについて触れておきますと、まず一つ目の、深園の状態を元に戻すというのは難しいでしょう。外へ逃げた深園の人間を連れ帰り、再び閉じ込めたとしても、我々の存在を忘れてもらうには何世代もの時間がかかります。これまでとは違い、彼らは外に出ようとするでしょう。その対応にも追われます。そうなると、これまでとは大きく異なった条件での研究になるでしょう。


 二つ目の深園を捨て置くというやり方には賛成です。その場合、HUE-33は別の研究施設へ移動するか、一度解体することになるでしょう。


 私はそれに加えて、三つ目の選択肢を提案させていただきたい。研究の目的を変えて、調査を続けるというやり方です。例えば、HUEの存在を知った上で、彼らがどのように生きていくのかという視点で研究を続ける。この場合は照射の必要がないため、HUEの規模を縮小させて拠点を移すことができます。私の予想では、深園の人間は、外の世界を知ってなお、石の中に自ら閉じこもるのではないかと思っています。面白いテーマではないでしょうか。


 他には、瞬間移動の能力が社会に及ぼす影響を研究するのはいかがでしょうか。隕石自体の調査を続けるべきなのは言うまでもありませんが、瞬間移動という新しく強大な能力を我々の社会に持ち込む前に、彼らの社会で実験するのも良いでしょう」



 ユキトは三つ目の選択肢について、さらに具体的に説明する。深園での各操作の権限を奪われた今、ユキトのあずかり知らぬところで物事が進みかねない。だからこそ、ここでの陳述は極めて重要だ。このイレギュラーな事態を、セントラルが活かさずに見過ごすことはないと、ユキトは読んでいた。このまま捨て置くよりも、研究を続ける方に乗るのではないだろうか。


 周りが自分に賛同するのを聞きながら、彼はさらに先のことも見据えていた。ユキトの狙いは、深園の管理機能を動かし続けることだ。食べ物などの生活に必要な物資の供給を確保すれば、林檎たちの助けになるだろう。彼女たちは自由になった後の生活をそこまで重視していないようだったが、ユキトは自分のこの役割が非常に大切だと思っていた。コンピュータの統率を失い、不便で不快な現実を目の当たりにしたとき、彼らはやがてその理想の脆さに打ちのめされるだろう。

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