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天を穿つ黴  作者: 宇白 もちこ
第四章 風が吹いている
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4-4

 作業がひと段落すると、シュンは大きく息を吸い込み、手の指を曲げ伸ばしした。緊張で神経が張り詰めている。焦りは禁物だと、彼は自分に言い聞かせた。


 シュンは、本物の管理システムに自作の配信機能をインストールした。これは今回の計画を思いついてから、すぐに制作に取り掛かり、一人で少しずつ作り進めていたものだ。既存の配信システムを使わなかったのは、外部から決して解析や編集をできないよう、特殊な加工を施したかったからだ。

 次に、受信用の機能を深園の国民の各端末へ強制的にインストールさせる。これで、木蓮の端末から、国民の各端末への配信が可能になった。


 木蓮を病院から連れ出し、所定の場所まで連れてきた旨の連絡が林檎から届いた。準備は整っているらしい。こちらも配信の準備ができたことを伝える。


 深園で購入した携帯端末を見ていると、やがて通知音が鳴り、画面を操作することなく自動的に配信が始まった。

 計画通りだ。

 深園の国民は、子供も大人も老人も、漏れなくこの配信を見ているはずだ。


 まずは、あらかじめ録音しておいたユキトによる説明が配信される。これは木蓮の端末から流せるようにしておいたものだ。画面には、それが文字に起こされて表示された。


「深園のみなさん。私の名前はシュンと言います。この国と国民のみなさんを管理している者です」


 事前に決めておいた通り、ユキトの声は声を変える機能でシュンの声に変換され、彼がシュンを名乗って話し始めた。



「我々は、光線を上空から当てることによって、あなたたち国民をこの国に閉じ込めています。あなたたちの皮膚を焼き、目を潰すあの太陽光は、我々が作り出した、人工の光です。それは本物の太陽光ではありません。信じがたいかもしれませんが、あなたたちは、我々、同じ人間によって、この地に幽閉され、監視されてきたのです。


 このことを皆さんにお伝えすることにしたのは、長年の仕事を通じてこの国を見てきたこと、またこの国の友人との交流を通じて、私の中で心変わりがあったからです。私たちがあなたたちを支配してきたのは間違いだと、あなたたちと同じ人間だからこそ、痛感したのです。私は今、自らの任務に背き、あなたたちの解放を手助けすることにいたしました。私とその仲間は、あなたたちをこの国から脱出させ、本物の大空の下へと解放したいと考えています。


 ただし、それには皆さん一人ひとりの勇気と決断が不可欠です。これは映画や小説の話ではありません。現実です。私たちだけでは成し遂げられません。皆さん一人ひとりが行動しなければならないのです。詳しい方法は、私の深園の仲間から説明があります。


 その前に、皆さんには、ここまでの話を信じていただく必要があります。今、私の権限を用いて、光線の照射を止めています。そしてこの後、全ての通りの天井と、全ての通りの外へと通じる扉を開きます。私の言葉を信じて、本物の太陽光が差し込まないこと、そして、この国の上空を覆う巨大な照射用パネルの存在を、その目で確かめてください。あなたたちがどのような状況に置かれていたのか。それを、自身の目で知るのです」



 その録音は、全部で三回流れた。


 にわかには信じられない話だということは、想定している。おそらく国民は恐れたり混乱したりせず、まだ冗談だと疑っている段階だろう。大規模な催しだと思っている人もいるかもしれない。若者のうち信じやすい者は、恐れるのではなく、むしろ色めき立っているかもしれない。中には「そうだと思ってたんだよ」とばかりに、したり顔で語りだす者もいるだろう。多くの人は、万が一のためといった温度感で、太陽光がなるべく当たらないよう石の奥深くへ避難するだろう。


 重要なのは、天井が開いた後だ。実際に光が差し込まないことで、疑いの余地なく信じざるを得ない状況になるだろう。国民全員が、自分たちの前に突きつけられた、新たな局面を直視せざるを得なくなるだろう。


 ユキトの音声が終わると、画面が切り替わった。

 正面に木蓮、両脇に梅と林檎が映し出される。木蓮の両目は包帯で隠されており、それ以外の包帯は取れている。薬で痛みはないと言っていたが、やはり非常に痛々しい姿だった。木蓮が話し始めた。


「今の話は本当です。私は九の木蓮です。私は深園の人間ですが、シュンの友人です。私は、隕石が落ちた時に空を見上げ、先ほどシュンの言っていたパネルを見ました。空に太陽はなく、この国は広大なパネルに覆われていました。隕石の落下により一時的に照射が止まっていたものの、すぐに照射が再開したため、私の目は焼けました」


 木蓮はカメラに近づき、両目を覆っていた包帯をゆっくり外す。その動きはからくり人形のように一定の速度で、ダンサーのように美しい形を作る。視聴者は思わず目を離せなくなるだろう。木蓮は、国民の目を引きつけ、印象付けるために、この動きを練習していたのだ。この演出はユキトの案だ。

 包帯が全て外れると、俯いていた木蓮は顔を正面に向けた。白目は赤く濁り、黒目には白い腫瘍が浮かんでいる。その痛々しさは、深園で暮らす人間の不条理さをよく表し、画面越しの国民の目に強く焼き付いた。


「落ち着いて聞いてください。これから通りの天井と、外へ通じる扉が開きます。そうしたら、まず、自分の目でパネルを見てください。私達をこの国に閉じ込めていたものを、その目で確認してください」


 画面の下の方には、木蓮の口にした言葉が字幕になって表示される。


「それから、この国を出て、できるだけ遠くへ逃げましょう。私たちが真実を知った今、パネルの上で私たちを管理する人間にとって、私たちの研究価値はなくなったのです。彼らが私たちをどうするのか、正確には分かりません。最終的な判断がどうであれ、すぐに天井を閉じ、再び光線を照射することは想像に易いです。もう一度閉じ込められたら、二度とチャンスはないでしょう。

 国の外に出て、光が当たらない所までまとまって逃げるんです。もし外に出るのが怖いのであれば、この配信を見ていてください。天井と扉が開いたら、私と友人が最初に外へ出ます」


 シュンは配信を聞きながら、端末を操作する。準備はできた。


「シュン、天井と扉を開けてください」


 シュンは深園の国民に、真実を見せた。

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