4-3
数日後、シュンの元へ、指定された期間に照射を止めるよう指示が来た。セントラルが話に乗ってきたのだ。
深園へと照射している光線は、シュンの所属する監視課で管理している。指定された日が到来すると、彼は定められた手順を踏んで照射を止めた。事前にいくつもの承認を必要とする複雑な作業だった。この操作は滅多に行われることはないため、シュンにとっても初めての経験だった。この間に、研究課の人間が隕石の調査を行うらしい。ユキトの提言通りだ。隕石の上に天井を建設してから調査するという判断になる可能性もあったが、そうならなくて良かった。
太陽光への恐怖は深園の住民に深く根付いており、外へ出ようとする人間はまずいない。隕石が落ちた際、パネルを見たと主張する住民の報告は何件か上がっていたが、彼らは速やかに隔離された。木蓮もその中に含まれているのだろう。外へ出ようとした者についての報告は一件も上がってきていない。
そのため、ユキトの読み通り、光線の照射を止めるという判断は、そこまで重く捉えられていないようだ。照射を止めたことによって、自分たちの計画はいよいよ始まった。
シュンは椅子に深く体を預け、これから行う計画の筋書きを頭の中でもう一度なぞった。
自分の心にわずかな迷いが残っていることを、シュンは自覚していた。大きな決断をする時はいつもそうだ。大学を決める時、恋人と別れる時、職場を決める時。土壇場で、その変化に伴って失うものの方へと意識が向く。
だが、それは怖気づいているだけだと知っていた。今、自分は臆病な気持ちから、計画を中止すべき理由を探しては、これまでの平穏な生活の魅力や、計画で発生する責任のことばかり考えている。
深く息を吸い込み、吐き出す。頭の中をクリアにし、事実を並べよう。
俺や俺たちがやってきたことは、深園で暮らす彼らの、当たり前の権利を阻害し、自由を奪う行為だ。俺たちは同じ人間であるにも関わらず、彼らの尊厳を踏み躙ってきたのだ。そんなことはもうやめると、俺は決めたじゃないか。
大義のためだけではない。この仕事の残虐さに気づいてしまった今、俺にはこの仕事を続けることも、見て見ぬふりをすることもできない。
意識は再び、失うものへと向く。この仕事に就けるよう幼い頃から勉強に励んできた。そのすべてが無駄になってしまうだろう。故郷には二度と帰れない。祖母の墓参りにも行けないだろう。そして、ユキトにも会えなくなる。
視界の端に、白いもやが揺らめいた。ユキトの残影だ。彼はシュンを見守るように、背後に立っていた。言葉はないものの、その残影から確かな信頼が伝わってくる。シュンの迷いは、その残影の静かな肯定によって少しだけ和らいだ気がした。
シュンは天井を仰ぎ、唾と共に胸のつかえを飲み込んだ。それから決意を込めてデスクに着き、端末に向き合うと、計画通りの操作を始めた。
シュンの端末には、監督と同等の権限が付与されている。これはユキトがやったことだ。彼は瞬間移動の能力を手に入れると、すぐに監督の部屋への侵入を試みたらしい。シュンがこの計画を話す前のことだ。具体的な目的もなく、監督の部屋に隠しカメラと盗聴器を仕掛けたと言うのだから、恐ろしい。彼の強かさには、尊敬の念を抱くだけではなく、敵には回したくないとつくづく思う。
計画の実行が決まった後、ユキトは監督の部屋の飲み物に下剤を盛り、仕事中にそれを飲むよう仕向けたらしい。監督がトイレへ駆け込んだのを監視カメラで確認すると、瞬間移動を行い、ログイン状態の監督の端末を操作して、シュンの端末へ同等の権限を付与することに成功した。いつかその操作履歴を特定されたとしても、監督の業務中の操作となるため調査は難航するだろう。
ただし瞬間移動の能力を明かした今、ユキトに嫌疑がかかる可能性はある。計画が終わり次第、カメラや盗聴器を回収する必要があるだろう。
シュンはまず、木蓮のいる病院の出入り口の制御を解除した。これで患者も外部の人間も、自由に出入りできるようになったはずだ。深園の人間は国、つまりHUE-33からの指示や判断を全く疑わない。これで騒ぎになることはないだろう。
それから、深園で購入した携帯端末で林檎に連絡を入れた。すぐに木蓮を連れ出してくれるはずだ。
次に、監督より下の権限しか持たない端末からは、別のシステムへアクセスするように切り替えた。シュンが一人で徹夜しながら作成した、擬似システムだ。ほとんどの部分はこれまでの管理システムから流用しているとはいえ、データ連動部分のダミーを作るのには骨が折れた。システムを通して得られる深園のデータはすべて、別の日の深園から得られたものに差し替えてあった。
この疑似システムを使っている業務担当者は、気づかないまま普段通りの作業ができるはずだ。ただし、サーバーの用意に限界があったため、丸二日分のデータしか準備できなかった。
それから本来のシステムに接続し、監督より下の権限を持つ端末からのアクセスを拒否させた。監督以上の権限を持つ端末から操作するか、システム管理部の人間が直接修正しない限り、元の状態には戻せないだろう。
ユキトは監督と共に、セントラルへ提出する隕石調査の進捗報告と、今後の方針に関する会議に臨んでいる。それをユキトが、できる限り引き延ばす手筈になっていた。すべては、これから深園で起こることに気づかれるのを遅延させるためだった。




