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天を穿つ黴  作者: 宇白 もちこ
第四章 風が吹いている
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4-2

 シュンとユキトは、三人とただ友人になりたかったわけではないようだった。シュンには、深園の人間を解放するための案があり、それを話したかったらしい。その計画はまだ骨組みの段階だったが、深園の三人の興味を大いに引きつけた。


 シュンが発案者ということもあり、その計画におけるシュンとユキトの役割はほとんどを占めるようだった。三人が計画に乗るには、まずは彼らとの信頼関係を築く必要がある。

 その日はユキトとシュンの仕事が休みだったこともあり、夜まで語り合った。HUE-33や彼らの仕事について、深園の三人が質問する場面が多かったが、どんな話をしても最後には例の計画の話に行き着いた。夜になる頃には、計画の実現に、ある程度の現実味が出てきた。


「私たち、ちょっと冷静じゃないかも」


 一番興奮していた梅が、疲れを見せて言った。深園へ帰ってきたのと一緒に、多少の冷静さも取り戻したようだった。


「結論に飛びつかないで、慎重に、考えないと」


 梅の言う通りだとは思ったが、それは彼女の苦手とすることのようにも思えた。


 梅の提案で、翌日は林檎と梅と木蓮の三人だけで話し合った。しかしその話し合いも、いつの間にか例の計画の細部をすり合わせる作業へと変わり、最終的には改善点と懸念点をシュンに送りつけて終わった。シュンは、計画をより実現に近づけるため、既に準備に着手しているらしい。

 こうして、計画は実現に向けてゆっくりと動き出した。


 シュンと林檎、そして木蓮は計画の実現に初めから積極的だった。特に木蓮は、深園の人間を解放するという希望に完全に魅入られ、その一点の光が心を支配していた。

 しかし、ユキトと、意外にも梅は消極的だった。ユキトが懸念点ばかり挙げ、用心深く振舞うのは、彼の立場ゆえだろう。彼は今の地位を多大な努力の末に手に入れたうえ、計画の要としての責任も全うしようとしているのだ。失敗するわけにはいかないという気迫がある。

 一方、梅が気にしていたのは、この計画に巻き込む人々のことだ。


 この計画が現実となれば、自分の生活は一変するし、もし失敗すれば命を落とすかもしれない。自分たち五人はその覚悟ができているつもりだった。だが、梅は自分たちだけでなく、巻き込むことになる他の人々への配慮を主張し、できる限りのことをすべきだと訴えた。計画の筋書き上、HUE-33側に悟られるわけにはいかないため、事前に国民に計画を共有しておくことはできない。私たち五人の働きで、膨大な数の人々の人生を、一方的に変えてしまうことになる。梅はその重みに怯えているようだった。


 二人とも計画の実行自体に反対というわけではなかったため、五人は話し合いを重ねながら、準備を進めていった。林檎はこれまでもチームで何かに取り組んだ経験はあったが、それを楽しいと感じたのは、今回が初めてだった。これまでの学校での活動なども、もし自分の意思で取り組んでいれば楽しめたのかもしれない。


 誰もが予想しなかったその五人の出会いは、人類の運命を大きく変えるだろう。林檎の胸には、確かな希望が満ちていた。私たち五人こそが、深淵なる闇の中で未来を照らす一筋の光となるのだ。




「以上のことから、すぐにでも隕石の調査に取り掛かるべきだと考えます」


 ユキトの説明は素晴らしかった。彼は瞬間移動の能力が持つ有用性や将来性を、いつの間にか数多く用意しており、多角的な視点からプレゼンテーションを行った。最後にはその能力が隕石によって得られたものだということを、根拠を並べて説明した。

 ただし、事前に決めていた通り残影の存在については一切触れなかった。黙っていてもばれることはないし、律儀に全てを報告するつもりもなかった。


 相手は、HUE-33を司る幹部の一人である監督だ。ユキトは例の計画の実行が決定すると、上司に掛け合い、通常は接触すら困難な監督との面会のアポイントメントを取りつけた。シュンはユキトの隣に立ち、心配を顔に出さないよう気を付けるだけでよかった。

 実際に瞬間移動を見せると度肝を抜かれた様子の監督は、ユキトの説明が終わるのを待たずして、その計り知れない可能性を確信したかのように深く頷いていた。


 HUE-33内で瞬間移動能力を得た者がユキト以外にもいる可能性はあったが、監督に報告したのは彼が初めてだったという。瞬間移動の能力について報告が遅れた点を突かれると、HUE以外の統治区に自分を売り込めないか考えていたのだと、大胆にも述べたのだった。能力を手にして気が大きくなっていただけで、冷静に考えてみると自分一人で扱える話ではなかった、と控えめな態度を見せる。隣で話を聞いていたシュンにも、どこまでが本当の話なのか、分からなかった。

 瞬間移動の情報が極めて重要であり、かつユキトへの元々の信頼もあって、結果として報告が遅れたことは不問となった。


 ここまでは上手くいっているようだ。あの能力の存在を知った以上、HUE-33内部から深園への監視は間違いなく強化されるだろう。深園にも能力を授かった者がいると考えてもおかしくない。そのため、既に林檎には、必要な時以外は能力を使わないように伝えてある。

 HUE-33の責任者は監督ではあるものの、全ての事柄の最終的な決定はセントラルが行う。この後のことはセントラルの意向次第だ。

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