箱の外の静寂
目をつぶって外を歩いてみる。
風を感じ、音を聞き、匂いを嗅ぐ。
すると閉ざされた世界は陰鬱でも混沌でもなく、
彩りある広大な世界だと知れる。
身体の感覚を研ぎ澄ませ、
頭の中のイメージで周囲の空間を創造する。
そこは理想郷であって然るべき。
人間はいつの日からか理想を抱くことを忘れた。
夢を持つことをやめ、
現実だけを見つめ、
効率だけを求める。
四角い箱の中に明かりを灯し、
お互いのことを監視し合って蠢く。
それはまるで、岩の下の虫のよう。
もしも大いなる存在がいたとしたら、
人間の住処たる箱を開けてこう言うだろう。
「ひしめき合って、気持ち悪い」
蟻塚のような会社の箱。
樹液たっぷりの大木のようなショッピングモールの箱。
蜂蜜の養蜂場のような団地の箱。
どれもこれも蓋を開ければ見上げてくる人間の驚いた顔顔顔。想像するだけで鳥肌が立つ。
箱生活に慣れすぎて、外を歩くことをやめた人々。
毎日箱に揺られ、
箱にたどり着き、
箱の中で闇雲に箱製品を作る。
恐怖を閉じ込めたはずの箱の中で、
いつしか自分が閉じ込められている。
そんな箱にまみれた現実に目をつぶる。
箱の外で立ち止まり、
風の匂いをゆっくりと吸い込む。
そこには心の安らぎがある。
世界は、瞼の裏でこそ、ひらかれる。




