第45話 悪役、国際問題に巻き込まれる
⸻
国連から帰って三日後。
アクオビ事務所のポストが、見たことない量の封筒で膨らんでいた。
「……ミナセ。」
「はいセンパイ。」
「これ、爆弾とかじゃないよな。」
「たぶん全部講演依頼です!」
やめてくれ。
封筒を一つ開ける。
《国際紛争調停フォーラムより講演依頼》
もう一つ。
《欧州平和研究所より特別講義依頼》
さらにもう一つ。
《南米紛争解決ワークショップ講師依頼》
「……世界、そんなに倒れ方に困ってるの?」
ミナセはキラキラしている。
「センパイ、完全に“世界平和アドバイザー”ですよ!」
「悪役の履歴書にそんな項目ないからな。」
⸻
そのとき、電話が鳴った。
「株式会社アクターズ・オブ・イービルです。」
ミナセが出る。
「はい!ブラック・アオトンは――」
ミナセの顔が止まった。
ゆっくり受話器を押さえて言う。
「センパイ。」
「なんだ。」
「外務省です。」
「……え?」
⸻
一時間後。
なぜか俺は外務省の会議室にいた。
スーツの人が並んでいる。
真面目そうな顔ばかりだ。
完全に場違い。
偉そうな人が口を開いた。
「ブラック・アオトンさん。
先日の国連スピーチ、大変反響がありまして。」
「それはどうも。」
「実は現在、ある国際会議で……少し問題が起きていまして。」
嫌な予感しかしない。
「話し合いが完全に平行線でして。」
「はい。」
「そこで、“対立の着地の仕方”を示してほしいのです。」
「……つまり?」
「あなたの言う、“倒れ方”を。」
ちょっと待て。
「いや俺、国を転ばせた経験ないんだけど?」
会議室は真顔だった。
⸻
外に出ると、ミナセが待っていた。
「センパイどうでした!?」
「世界が俺に“国の倒れ方”を教えてほしいらしい。」
「……スケールでかくなりましたね。」
「悪役のキャリアパスじゃねぇよ。」
⸻
夜。
事務所のソファに沈みながら天井を見る。
最初はただ、ヒーローに殴られて倒れる仕事だった。
それが今じゃ。
「……国際問題のクッション役か。」
ミナセがコーヒーを置く。
「センパイ。」
「ん?」
「悪役って、世界に必要だったんですね。」
少し考える。
そして肩をすくめた。
「いや。
たぶん世界が不器用なだけだ。」
コーヒーを一口飲んで言った。
「……まあ、転び方くらいなら教えてやるよ。」
⸻
次回予告
第46話「悪役、外交会議の通訳に困る」
――「“悪役語録”って英語でどう訳すんだよ。」




