第44話 悪役、国連に呼ばれる
――「“世界平和への倒れ方”って、どう説明すればいい?」
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朝。
アクオビのドアを開けた瞬間、ミナセが机の上でバタバタしていた。
「せ、センパイッ!! やばいです! 世界から呼ばれました!!」
「世界って雑だな。もう少し範囲を絞れ。」
「国連から正式文書が!! 本物です!!
“ブラック・アオトン氏による講演依頼”って!!」
ミナセが広げた封筒には、見慣れない青いロゴ。
そして、バカみたいに丁寧な文章。
《今回の平和サミットにおいて、逆境へのレジリエンスを語れる唯一の存在として――》
「……唯一って何だ。悪役ひとりに平和託すなよ。」
ミナセは目をキラッキラにして言う。
「センパイ……世界的悪役ですよ……!」
「いや、望んでなったわけじゃないからな。」
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国連本部。
正面のガラス張りの建物に近づくだけで、場違い感がえぐい。
「センパイ、スーツ似合ってます!完全に世界の重鎮ですよ!」
「悪役の肩パッドが浮いてるだけだろ。」
案内役のスタッフが丁寧に頭を下げる。
「ブラック・アオトン様、本日は“紛争とメンタルヘルス”のテーマで……」
「いや、俺そんな難しいテーマ聞いてねぇんだけど。」
「“倒されることで培った精神力”が、世界的に注目されておりまして。」
「世界よ……もうちょっとヒーローを頼ってくれ。」
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控室の隣では各国の代表がスピーチの最終稿を練っていた。
「気候変動」
「移民問題」
「医療支援」
「武力衝突」
そして俺のテーマ。
「倒され方と世界平和の相関性」
……場違いという言葉では足りない。
ミナセはテンションMAXだ。
「センパイ!“平和への倒れ方”ですよ!めちゃくちゃかっこいいじゃないですか!」
「いやそれ、語感だけで乗り切ろうとしてない?」
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本番直前、プリズマスターからメッセージが来た。
《ご武運を。ブラック・アオトンさんなら、きっと伝わります。》
真面目すぎる激励が、逆に緊張を呼ぶ。
だが、丁寧な距離感はありがたい。
「……世界にまで心配される悪役って、なんだよ。」
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ステージに上がると、広すぎる会場と冷静な視線の海。
全員、世界の未来を背負っている顔だ。
ここに悪役ひとり混ざるの、完全に事故だろ。
マイクの前に立ち、息を吸う。
「……どうも、倒され専門家です。」
会場がざわ……。
続ける。
「俺が毎日叩き込まれて分かったことがある。
“倒れ方には、相手を壊さず、自分も壊れない限界ラインがある”。」
翻訳が走り、各国代表が一瞬目を細めた。
「つまり、ぶつかり合いってのは……
お互いの限界をどう尊重するか、なんだよ。」
ミナセが控室で泣いてるのが容易に想像できる。
「正義も悪も、真正面から殴り合うだけじゃ続かない。
どこかで、譲る。
どこかで、受け流す。
どこかで、倒れてみせる。」
静かになった。
「“譲歩”って言葉を難しく考えるから揉めるんだ。
簡単に言えば――」
少し笑って、言った。
「――“倒れる役も必要”ってだけだ。」
静寂のあと、拍手が広がる。
世界レベルでの、ゆっくりした拍手だった。
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控室に戻るとミナセが腕をぶんぶん振りながら走ってきた。
「センパイ!!世界、救っちゃいましたよ!!」
「いや救ってない。ちょっと転び方教えただけだ。」
「でもニュースで大絶賛されてます!!
“悪役が語る平和論”って!」
「あの肩書きで記事にされるの恥ずかしすぎんだろ。」
スマホに通知。
《次回、UN特別ワークショップ:倒れ方訓練の講師依頼》
「……世界よ。もっと他にいるだろ、適任。」
それでも、少しだけ笑ってしまう。
「……まあいい。
悪役がひとつくらい世界に役立っても、バチは当たらねぇよな。」
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次回予告
第45話「悪役、国際問題に巻き込まれる」
――「いや、俺ただの倒れ役なんだけど?」




