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『この世界、悪が足りない。』   作者: よしお


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第43話「悪役、TEDに呼ばれる」



――「“世界を変えるスピーチ”って、悪役が言うとフラグにしか聞こえない。」



巨大ホールの前。

赤いカーペットが敷かれ、巨大スクリーンには白文字でこう映っていた。


『T.E.D. TOKYO 〜Ideas Worth Surviving〜』

(※生き延びる価値のあるアイデアたち)


……なんでサバイバル風なんだよ。


スタッフが駆け寄ってくる。

「ブラック・アオトンさん!今日のスピーチ、めちゃくちゃ期待されてます!」

「悪役のスピーチに期待される時点で、社会のメンタル心配なんだが。」

「“逆境から学ぶ姿勢”が世界的テーマなんです!」

「逆境=毎日ヒーローに殴られること、って世界基準にするな。」


横でミナセがテンション最高潮。

「センパイ!!海外進出ですよ!!悪役なのに国際派!!悪の外交官!!!」

「お前、言葉のセンスはいつ開花したんだ。」



控室。

パネルに貼られてる今日のラインナップを見る。


・脳科学者

・気候活動家

・起業家

・ブラック・アオトン(悪役)


……1人だけジャンルの暴れ方が違う。


ミナセは目を輝かせて言う。

「センパイ、悪役ってカテゴリー、世界じゃレア職らしいですよ!」

「世界的希少種って言い方すんな。絶滅危惧職なんだよ。」



ほどなく本番。

スポットライトが当たる。

何百人もの観客。

配信視聴者は数十万人。


司会「続いてのスピーカーは……“悪役”です。」


会場 どよっ。


アオトンはゆっくりステージ中央に立つ。

マイクひとつ。

静かすぎて、呼吸音が響く。


「……初めまして。生き方が職業病みたいな男です。」


笑いが起きる。

少し空気が和らぐ。


「俺は“悪役”をやってます。

 いや、本物の悪じゃない。ただの“負ける専門家”です。」


ちょっと笑い。

その隙に、アオトンは静かに続ける。



「人は勝つことで強くなるんじゃない。“倒れ方”で強くなるんだ。」


会場が静まる。

翻訳担当のイヤモニ越しに、英語の同時通訳も止まった気がした。


「ヒーローに殴られ、転がされ、爆発に巻き込まれ――

 でも俺は毎回、立ち上がる。

 だってそれが“誰かのステージを作る仕事”だから。」


スクリーンにはアクオビのステージ映像。

アオトンが吹っ飛び、立ち上がり、笑ってみせる姿。


「倒れる役がいなきゃ、誰も輝けない。

 “善”を主役にするために、俺たち“悪”が必要なんだ。」


観客の空気が変わる。

ただの笑いじゃない。

理解し始めた気配。



「そして――人間も同じだ。」


「人生で殴られることはある。

 失敗する。

 裏切られる。

 倒れる。

 何度も、何度も。」


アオトンは静かに笑った。


「でも、倒れ方さえ覚えれば……誰だって、立ち上がれる。」


拍手が、少しずつ増えていく。



「だから今日、伝えたいのは一つだけ。」


ライトが少し暗くなる。

赤い円の上に、アオトンの影が長く伸びる。


「“自分の物語の悪役になってやれ。”」


会場が揺れるようにざわつく。


「嫌われ役でもいい。

 かっこ悪くてもいい。

 倒されてもいい。


 その倒れ方が、誰かを立たせるなら――

 それは十分、“善いよいあく”だ。」


静寂。


そして――


万雷の拍手。



ステージ袖。

ミナセが涙ぐみながら言う。


「センパイ……かっこよすぎて、悪役じゃないっすよ……」

「泣くな。悪役が感動売ると、職務違反だ。」

「でも観客ぜんいん泣いてましたよ?」

「……世界、疲れすぎだろ。」


その横で、海外メディアのレポーターが殺到する。


「アオトンさん!

 “倒れ方哲学”についてもっと聞かせてください!」

「あなたの言葉、国連でも通用します!」

「書籍を翻訳させてください!」


アオトンはため息をつきながら、小さく笑う。


「……悪役なのに、善行ポイント貯まりすぎじゃねぇか。」



次回予告


第44話「悪役、国連に呼ばれる」

――「“世界平和への倒れ方”って、どう説明すればいい?」


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