第42話「悪役、講演依頼で地方巡業」
――「“叩かれ方講座”が企業研修に採用された件について。」
⸻
「はいそれではみなさーん、“倒される姿勢”の基本からいきましょう!」
体育館の真ん中でマイクを握り、堂々と立つ俺――ブラック・アオトン(本名:アオト)。
後ろにはアクオビのロゴ入りバナー、そして前にはスーツ姿の社会人百人。
……いや、なんでだよ。
「センパイ、地方企業の“人材育成セミナー”って、まさかガチのやつなんすね!」
ミナセが横で無邪気に笑う。お前、楽しそうだな。
⸻
きっかけは例の本《叩かれ上手になる方法》が全国紙で取り上げられたこと。
「逆境を笑いに変える“悪役思考”」が話題になり、講演依頼が殺到。
結果――なぜか俺が“モチベーション講師”として地方巡業することになった。
しかもギャラは悪役ショーの3倍。
……世の中、倒されるより喋る方が儲かるらしい。
⸻
「では実践してみましょう。“上司に怒られたときの受け身”!」
俺が床にマットを敷くと、スーツの中年男性たちが戸惑いながら立ち上がる。
「怒鳴られたら――まず背筋を伸ばし、少しだけ笑うんです。“余裕ある悪役”を演出する!」
「こ、こうですか?」
「そうそう!で、最後に“ククク……”って笑ってください。声は低めで。」
体育館に響く「ククク……」の大合唱。
……カオスだ。だがなんかウケてる。
⸻
休憩時間、美影ユリ(ヒーロー管理局)が顔を出した。
「すごい人気ですね。もう“ヒーロー教育”より人集まってる。」
「いや、こっちは社会人の再教育だ。ヒーローより厄介だぞ。」
彼女は苦笑して言う。
「でも、あなたの“悪役論”、けっこう深いですよ。“倒されることを恐れない強さ”とか。」
「それはまあ……毎日実践してるからな。」
⸻
その後、地方局のニュースにまで取り上げられた。
《話題の“悪役講師”、倒され方で人生を語る》
“叩かれても前向き”ブーム拡大中!
アクオビの社長は笑いが止まらず、
「アオトン君、次は“オンライン講座”だ! タイトルは《悪役流レジリエンス講座》でどうかな!」
「……社長、それもう悪の会社じゃなくて教育産業ですよ。」
⸻
夜のホテル、講演用スーツを脱ぎながら、窓の外に広がる地方都市のネオンを見た。
ふと、ステージの頃を思い出す。
ヒーローに殴られ、転がり、子どもたちが笑ってくれたあの日々。
「……なんだ、あの頃と同じじゃん。」
俺は小さく笑う。
叩かれて、笑われて、少しだけ救われる。
悪役の生き方って、案外、教育的なのかもしれない。
⸻
次回予告:
第43話「悪役、TEDに呼ばれる」
――「“世界を変えるスピーチ”って、悪役が言うとフラグにしか聞こえない。」




