第41話「悪役、まさかの自己啓発書デビュー」
――「“叩かれ上手になる方法”って、真面目に売れるのやめて。」
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「……おいおい、マジかよ。」
朝のコンビニでコーヒー片手にニュースアプリを開いた俺――ブラック・アオトンは、目を疑った。
ランキングの3位に見慣れた名前がある。
《ブラック・アオトン著:叩かれ上手になる方法》
「……タイトル、どう考えても冗談だろ。」
隣で雑誌棚を整理していたミナセが顔を出す。
「センパイ、あれ、出版されてたんですか?あの、“ヒーローに倒される心得”のやつ!」
「いや、あれは社内講習用にまとめたメモだって!誰が出したんだよ……」
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数日前――
俺はアクオビ(正式名:株式会社アクターズ・オブ・イービル)の社内研修で、後輩たちに“叩かれ方の極意”を伝授していた。
「ヒーローがパンチするときは、タイミングより“華”を意識しろ。吹っ飛びながらカメラ目線を忘れるな。あと、倒れたあとに小石を拾うと“努力感”が出る。」
――それを真面目にメモってたのがミナセだ。
で、そのミナセが言うには、「社外向けに出したらウケると思って……」とのこと。
「お前なぁ……」
「だって、先輩の言葉って、なんか“人生”感じるじゃないですか!」
「悪役人生に学ぶな。」
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だが皮肉なことに、この“叩かれ上手”本がバズった。
レビュー欄には――
「上司の叱責もパンチと思えば平気になった」
「人生で吹っ飛ばされても、カメラ目線を忘れない」
「悪役式マインドフルネスに救われた」
……いや、誰が心のセラピストになれと言った。
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出版記念イベントの取材依頼まで来てしまい、アクオビ本社はお祭り騒ぎ。
社長の声が飛ぶ。
「アオトン君、次は“続編”を!タイトル案は“倒れ方で人生が変わる”どうかな!」
「いや、変わるのは人生じゃなくて職業ですけど!?」
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サイン会当日。
列の先頭に、スーツ姿の美影ユリ(ヒーロー管理局のあの人)が立っていた。
「……買いましたよ。部下の教育に役立ちそうで。」
「それ正しい使い方か?!」
彼女は小さく笑って言った。
「あなた、ほんとに“悪役”向いてませんね。」
「だろ?……でも、必要なんだよ、こういうバカみたいな本。」
俺は苦笑しながら、サインペンを走らせた。
“悪役だって、人を救うときがある。”
そんなセリフを口にした瞬間、隣でミナセが叫んだ。
「センパイ、第二刷決定っす!重版です!!」
「……この世界、やっぱり悪が足りねぇわ。」
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次回予告:
第42話「悪役、講演依頼で地方巡業」
――「“叩かれ方講座”が企業研修に採用された件について。」




