第40話 悪役、まさかのドキュメンタリー取材を受ける
――「“正義が過労で崩壊する時代に、悪が働き方を語る”って、もう社会派すぎだろ。」
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午前十時。
アクオビ事務所のドアが、遠慮がちなノック音と共に開いた。
「初めまして、公共放送『ヒューマンドキュメント24』取材班です!」
スーツ姿の若いディレクターが、深々と頭を下げる。
後ろにはカメラマン、照明、音声――総勢五名。完全に本格取材体制だ。
「えーっと……取材対象、“株式会社アクターズ・オブ・イービル”代表、ブラック・アオトンさんですね?」
「はい。職業:悪役、兼バイト指導係です。」
「はい……(※なぜか敬語が増す)」
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カメラが回る。
アオトンはコーヒーを片手に、インタビュー用の椅子に座らされた。
「ではまず、“悪役という仕事”を選んだ理由を教えてください。」
「単純ですよ。ヒーローが増えすぎて、悪が不足してたんで。」
「……社会的需要、ですか?」
「ええ。需要がなきゃ、悪も絶滅するんで。」
ディレクターが思わず吹き出す。
「す、すみません……すごく合理的で、でもなんか悲しいですね。」
「大丈夫、慣れてます。俺、道徳の補助教材みたいなもんですから。」
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そこへミナセが登場。スーツにネクタイ、なぜか名刺を配り始めた。
「こちら新人怪人、ミナセ・イービル・ジュニアです!」
「名刺文化あるんですね、悪役業界って……!」
「社会的信用を得るには、まず形式からです!」
「悪役なのに信用狙い……業界変わりましたね。」
「ええ、“悪く見える努力”って大事なんで。」
「発言が全方向に哲学的ですね。」
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午後。
取材チームは“悪役の日常”を撮るため、現場に同行することに。
撮影現場:子ども向けイベント「正義の祭典スペシャルステージ」
アオトンとミナセはいつもの黒コート姿で登場。
今日は“ヒーローたちに敗北しながらも、友情を学ぶ”という教育ストーリーだ。
「おお、ブラック・アオトンだ!」
「がんばれー悪役ー!!」
――子どもたちの声援が、なぜか温かい。
「……ディレクターさん、これ撮れてます?」
「はい。めちゃくちゃ“悪のヒューマニズム”出てます。」
「そんな単語あるんだ……。」
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ステージ後、控室。
ディレクターが、真面目な顔でマイクを向ける。
「ブラック・アオトンさん。あなたにとって、“悪”とは?」
少し沈黙。
アオトンはゆっくり、答えた。
「“悪”は、正義の余白ですよ。
世界が白黒はっきりしてるように見えて、グレーの部分に人が生きてる。
俺らはそこを見せるために殴られてるんです。」
取材班が一瞬、黙り込む。
カメラマンが小声で言った。
「……なんか、今日一番刺さりました。」
「そりゃ悪役ですから。心に刺すのは得意です。」
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取材後。
番組プロデューサーが頭を下げた。
「いやあ、想像以上に深い話で……! ドキュメンタリー枠、延長決定です!」
「え、延長? ドキュメンタリーって延長するもん?」
「“悪役の哲学”特集にします!」
「やめて。視聴率下がるぞそれ。」
ミナセが小声で囁く。
「社長、これ……本、出せるレベルじゃないですか?」
「俺、“悪役流メンタルマネジメント”とか出版したら、正義が泣くぞ。」
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夜。
取材クルーが帰ったあと、静まり返った事務所で。
アオトンは照明の残光を見上げながらつぶやいた。
「……“悪”が誰かを救う日が来るとはな。」
その手元のスマホには、ニュース速報が流れていた。
《ドキュメンタリー放送決定:特集「正義より疲れてるのは、悪かもしれない」》
「……タイトル、攻めてるな。」
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次回予告
第41話「悪役、まさかの自己啓発書デビュー」
――「“叩かれ上手になる方法”って、真面目に売れるのやめて。」




