第39話 悪役、教育番組で“ヒーローより人気”になった件
――「“悪いほうが推せる”って、どんな時代だよ。」
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朝。
アクオビ事務所の扉が開くと同時に、ミナセがスマホ片手に飛び込んできた。
「しゃ、社長!! 見ました!? トレンド!!!」
「おはよう。朝からテンションが災害級だな。」
「見てくださいって!! #アオトン様尊い が2位ですよ! 全国トレンド2位!!」
「……タグの意味が理解不能なんだが。」
「“倒され方が美しい”ってバズってるんです!」
「うわぁ……“美しい倒され方”って、俺のキャリアそんな評価軸で見られてたの?」
ミナセは興奮気味に続ける。
「しかも、昨日の放送、視聴者アンケートで“ヒーローより癒された悪役”が1位ですよ!」
「おいプリズマスター泣くぞ。」
「実際、泣いてましたよ。『正義の時代が終わった……!』って。」
「語彙まで昭和か。」
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昼。
テレビ局の会議室。
アオトンはスーツ姿のプロデューサーに呼び出されていた。
「ブラック・アオトンさん! 実は新企画の件でご相談が!」
「……また番組ですか?」
「はい。“ヒーローの倫理”をテーマにした新教育番組で、あなたに司会をお願いしたいんです!」
「司会!? 俺、悪役だぞ!?しかも滑舌は怪人寄りだぞ!?」
「だからこそいいんです!“悪が正義を語る”――いま視聴者が求めてるのは、それなんです!」
「……時代が病んでないか?」
「むしろ健康的です!」
「うん、その言葉が一番危険だな。」
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控室でプリズマスターが落ち込んでいた。
「アオトン……俺さ、昨日からフォロワー千人減ったんだ。」
「え、マジで?」
「“正義うるさい”って言われてさ……俺、正義やってるのに……。」
「いや、それはお前の光量の問題じゃない?」
「俺、反射で嫌われたの!?」
ミナセが追い打ちをかける。
「社長、これ完全に“悪役が推される時代”っすよ! “闇属性男子ブーム”の再来です!」
「お前、俺をジャンルで語るな。」
「だって、“ダークなのに優しい”って、今の視聴者にドンピシャなんですよ!」
「それ褒めてるのか馬鹿にしてるのか、どっちだ。」
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撮影中。
アオトンは子どもたちの前で話していた。
「“悪”ってのはな、必ずしも悪いもんじゃない。
誰かが嫌われ役をやらないと、世界はまっすぐ立てないからな。」
子どもが手を挙げる。
「ブラック・アオトンさんは、ほんとは悪じゃないんですか?」
アオトンは少し笑って答えた。
「悪の仮面をかぶるのが仕事だ。でも、それを笑ってくれる君たちがいれば、それで充分だよ。」
スタジオが、静かに拍手に包まれる。
――その夜、SNSでトレンド1位になったタグは《#アオトンに育てられた世代》。
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数日後。
教育局の会議室。
プロデューサーが書類を差し出す。
「正式に決まりました。“悪役による教育特番”――タイトルは『正義のスキマ、埋めます。』!」
「うわ……完全に俺が社会問題みたいな扱いされてる。」
「時代の象徴ですよ!」
「いや、俺はただの自営業(悪役)だからな!?」
ミナセが横で目を輝かせる。
「社長、これ次は紅白出れますよ!!」
「悪役が紅白出たら、それはもう終末予言だ。」
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夜。
事務所に帰ると、机の上に匿名のファンレターが置かれていた。
丁寧な字で、こう書かれていた。
『アオトンさんの“悪”に救われました。
正義がまぶしすぎて苦しかった私に、あなたの曖昧さがやさしかったです。』
アオトンはしばらく黙って、それを机に戻した。
そして小さく呟いた。
「……悪役も、悪くないな。」
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次回予告
第40話「悪役、まさかのドキュメンタリー取材を受ける」
――「“正義が過労で崩壊する時代に、悪が働き方を語る”って、もう社会派すぎだろ。」




